前回紹介した「Waves Q10 Equalizer」。
Waves Q10 Equalizerにも豊富なプリセットがある。
即戦力、そして大幅な時間短縮にもつながるので、フルに使いたいところ。
だが、中にはちょっと用途が分かりにくいものも…そんなQ10のプリセットたちをご紹介。
メインのプリセット(前半)
こちらはフォルダ分けされていないメインとなるプリセットたち。中盤にはプロデューサーやエンジニアが手掛けたプリセットたちがあるが、そちらに属さないプリセットたちである。
PA Default
4バンドだけあらかじめオンになったプリセット。とはいえそれ以外は特に…起動時との違いは4つのバンドがオンになっているか否かのみ。
迷ったら戻ってくるプリセットかも。でも実は右上の「Flat」を選べばこの状態に戻るしなぁ…。
Lead Vocal
どちらかというと女性ヴォーカルの方がヒットしそうなプリセット。
低域はパスフィルターじゃなくてシェルフにしても良いかも。
4番のバンドを左右に動かして低域の安定感をコントロール。7~9は抜け感やエアー感に関わる。ノイズが気になるときは9番をやや下げるか、10番をオンにしてカットする。
Backing Vocal
前のLead Vocalとブーストポイントが似ているので、二つを組み合わせると馴染みは良さそう。違和感なくハモりを混ぜるようなときに。
好みでローをカットすると、さらにエアリーに。
Piano
結構キラキラしたピアノの音になりそうなプリセット。
ピアノのハンマー音とキラつきのコントロールは8~9番あたりで。
2番をブーストにするとウォームに、2番と5番あたりをカットするとタイトに。
Power Bass
一見大味に見えるグラフだが、ベースが目立つ楽曲ならこのプリセットから始めても面白そう。
5番のカットがキモとなる。ここは色んな音が重なってぼやけやすい音域なので、ここをカットする事で音が分離しやすくなる。
ピック弾きなら7番をもう少し高域に、指弾きならば7番をもう少し低域に持っていくとさらにパワフルに。
ギラギラ感を出したいときは9番のパスを緩める。
Guitar Enhance
中音域では左右で対になる割り振りがされていて、疑似的なステレオ効果を生んでいる。
バッキングならば3番をもう少し低域へ持って行っても良い。リードならば2番あたりでハイパスを掛けて無駄な低域を削ると扱いやすい。
Loudness
様々な楽器が集中しやすい500Hzあたりをカットしたプリセット。とりあえず音量を稼ぎたいならば、もしかすると単純にフェーダーを上げるよりも効果的かもしれない。
Acoustic Guitar
アコギのためにチューンされたプリセット。どちらかというとアンサンブル向けっぽさはある。
1番は共鳴のカットに効果的。ただしアコギの胴鳴り感は損なわれる。3番をオンにしてほんのりブーストすると深みが出る。
4番を徐々に高域へスライドしながら軸を探していく。
弾き語りのような小編成ならば、ボーカルのために5番のブーストを抑えめに。周辺をカットしても良いくらい。
6~10番はきらびやかさ。他の楽器との兼ね合いによって調整する。
60Hz Hum removal
60Hzを基準としたハムノイズを取るためのプリセット。
60Hzから順に倍音を取り除くようなFreq値になっている。
50Hz Hum removal
こちらは50Hzを基準としたハムノイズの除去に。
Noise Removal
ノイズ除去、という名のプリセット。
マイクに残る部屋鳴りを綺麗にしたりするのに使えるかも。
Radio
ラジオのような、低音と高音の削がれたシミュレーション・プリセット。
ちょっとチープ感を出したいときに使える。声素材やループ素材にも。
Telephone
まるで無線機を使っているかのようなシミュレーション・プリセット。高域と低域をバッサリとカットする事で、限られた周波数のみを通すレトロな電話のような音に仕上げる。ボーカルやホーン系に使うと面白い。
さらにメガホンのような音割れを狙うならば、ゲインを上げてクリップさせる。その後ボリュームを絞るのも忘れずに。
High Tilt
Tiltは傾きの事。全体に"ゆがみ"がある場合、このティルトを掛けると良くなる場合もある。
また、ノイズを変換することも出来る。例えばホワイトノイズは全周波数で同じくらいの強度のノイズだけど、このティルトを通すと1オクターブごとに3dBずつ強くなるブルーノイズとなる。
1~5のバンドをオフにして6~10のバンドをオンにすると逆向きのティルトになり、ここにホワイトノイズを通すと1オクターブごとに3dBずつ弱くなるピンクノイズになる。
Bass Tilt
低音部分がブーストされたティルト。
500Hzあたりからオクターブが下がるごとに約1.5dBずつブーストされていく。
Legacy
前のモデルからよく使われていた(とされる)プリセットが抜粋されている。
10-band master EQ
こちらはレガシー版のデフォルト。Q値が3.0になっている。
Baxandall EQ
バクサンドールさんが考案したからバクサンドールなんだってさ。アンプにも使われているトーンコントロール回路のシミュレーションのプリセット。
低域と高域の2バンドが活きている状態。それだけと言ってしまえばそれまでなんだけどね…。
Super Notch(-48dB)
とても急なカーブのカットフィルター。ノッチとは切れ込みの事。
バンド1~バンド4で1つのノッチとなっているので、まとめて操作する。
バンド5~バンド8には2つめのノッチが用意されているので、必要ならばオンにする。さらにバンド9,10にも3つめのノッチが用意されている。
+3dB Plateau
プラトー。高原である。
言われてみればグラフが高原っぽい。贅沢にも10バンドをフルに使い、特定の周波数の範囲を3dB持ち上げている。プリセットでは50Hzあたりから300Hzあたりがブースト。
+1dB Tilt
こちらは先ほど出てきたティルトに比べるとかなり穏やかなプリセット。
こちらも1~5のバンドと6~10のバンドでちょうど逆の傾斜になるようにプログラムされている。
Multimedia 22kHz brickwall
サンプルレートを22kHzで書き出しするときに使うけど、今となってはほぼ需要の無いプリセット。
ブリックウォールは直訳すると「レンガの壁」。グラフがストンと壁のようになっているプリセットはブリックウォールと呼ばれたりする。
Multimedia 11kHz brickwall
こちらはサンプルレートを11kHzで書き出す時のためのプリセット。22kHz用のプリセット以上に使わない。意図的にこの周波数でカットしたいときには良いのかも…。
10x PseudoStereo
Pseudoとは「疑似」という意味で、要するにこちらは疑似ステレオを作り出すプリセット。
周波数ごとに左右に割り振りされていて、これが疑似的なステレオ感を生み出す。
このプリセットはモノラルな音素材向き。ステレオに使っても広がり方が変わって面白いけど、位相を崩しがちなので使い勝手が良くない…。
Baxandall Notch Cuts
バクサンドール氏、二度目の登場。
こちらは1・2番の操作子はそのままに、ノッチが3か所に仕込まれている。
3~4番が中域、5~7番が低域、8~10番が高域のノッチとなっている。
Super Notch(-15dB)
こちらは"Super Notch(-48dB)"に比べると浅めのノッチ。
2バンドで構成されているので、他のバンドを使ってパスフィルターを作ったりする余裕もある。
DAT-CD de/pre-emphasis
こちらのプリセットはDAT及びCDのエンファシスカーブを模したプリセット。
バンド1がプリエンファシス、バンド2がディエンファシスとなる。
プリエンファシスは変換時の高音域減衰に備えてあらかじめ高音域を増幅しておく機能。そしてそのプリエンファシス済みの音をフラットなイコライジングで聴くためにはディエンファシスが必要となる。
いずれにせよ、このプラグインはデジタル回路なのであくまでもシミュレーションである。
J17 de/pre-emphasis
オーディオでは先述のCD/DATのエンファシスが一番有名だけど、放送業界ではこちらのJ17(CCITT J17)の方が使われていたりする。
1~2のバンドはディエンファシス。3~4のバンドはプリエンファシス。
5~10をオンにすると15kHz付近にブリックウォールが掛かる。
Dave Pensado
ミックスエンジニアであるDave Pensado。ビヨンセ、メイシー・グレイを手掛け、グラミー賞受賞歴もある。
そんな彼の作ったプリセットたちも収録されている。
Pensado Start 4 Bands
4つのバンドがオンになっているのは通常のデフォルトと同じだが、Freqが実用的な場所にマークされている。
キックやベースが固まりやすい1番、楽器が渋滞する2番、抜け感に関わる3番、倍音をコントロールする4番がオンになっている。
Pensado Start 6 Bands
コントロールポイントをさらに2つ増やしたプリセット。これくらいがちょうど良い。
Pensado Q6
Q10でももちろん使えるが、Q6(6バンドのバージョン)を想定したプリセット。
低域から高域まで幅広くFreqを設定、Q幅は全てデフォルトの7。1番はパスフィルターにする事が多くなるかな。
Pensado B Vocal 1
"B Vocal"なのでバッキングボーカル、つまりハモり。
実は前に出てきた「Backing Vocal」のプリセットと全く同じ。
Pensado B Vocal 2
こちらは男性ヴォーカルを想定しているかのようなカーブ。
1番がボトムとなっていて、2番で存在感を調整。3番は左右にいじって上手い事余計なエアー感をカットできるポイントを探る。
必要に応じて1番より下の音域にシェルフを掛けてモコモコ感を削るのも良い。
Andrew Thornton
FOH ENGINEER*1を務めるAndrew Thornton。彼の用意したプリセットは一種のみだが、より実戦向きな物になっている。
PA EQ Starter
こちらはAndrew氏のデフォルト。ここから始める、という感じのプリセット。
Qはどれも鋭めで、狙った周波数にフォーカス出来るようになっている。
3~5番と8~9番でチューンされている周波数帯域は音が固まりやすいポイントなので、バンド密度が高くなっている。
Autodafeh
スウェーデンのEBM*2、「Autodafeh」の作ったプリセット。
AUTODAFEH Q10 Hold The Line Synth
"Hold The Line"とは"通話しっぱなし"って事。そう、こちらも前に出てきたプリセット「Telephone」や「Radio」と同様に低域と高域を大きくカットしたグラフになっている。
「Radio」よりさらに低域を削り取ってはあるが、「Telephone」ほど激しくはない。ローファイなサウンドを作るのに適している。
Greg Price
こちらもFOHエンジニアの方。あのOzzy Osbourneの音響を担当したことでも有名。
Over Head
オーバーヘッドマイクのためのプリセット。ドラムの上に設置したマイクね。
バスドラムやスネアの音はそれぞれのマイクで収音しているので、オーバーヘッドの役割は主にシンバルの音。その辺を上手く目立たせる音作りをしてあるプリセットである。
まずは1~3番で中低域のコントロール。モコモコしそうなあたりはバッサリカット、という感じ。これは他のマイクで低域が収音できている前提。
6番を左右に動かして、キラキラ感をコントロールする。
Kick Chain
キック・チェーン。バスドラムにはマイクを1本のみならず数ヶ所に立てたりするが、そのそれぞれのマイクをまとめたトラックーーつまりチェーンに差し込む事を想定したプリセット。
ベースのために大きく低域を間引いて、ベース音よりさらに下のFreqでバスドラムの音圧を稼いでいる。
3番はベース、4番はベースを含んで様々な楽器が入り混じる音域となる。
削り過ぎるとコシや輪郭が損なわれるので、様子を見ながら調整する。
Ozzy vocal chain
その名の通り、オジー・オズボーン用のプリセットなんだと思う。
低域~中域にかけては大胆なカットがされている。ややもすると声の重みが失われてしまいそうなほどのカットだけども、ライブ用プリセットと考えれば大丈夫かも。1.2kあたりのノッチも重要。ここを左右に動かして、他と干渉しないポイントを探る。
Histibe
サウンドデザイナー、プロデューサーであるHistibe氏のプリセット。
HISTIBE BRIGHTER HATS
ハイハット用のプリセット。低域はがっつりと削られ、タイトな音に仕上がっている。
1~3番は高音域のチューン。1番はわずかなカットだが、この辺が持ち上がるとルーズな印象になってしまう。必要に応じてさらにカットさせたり移動したり。
2kHz~8kHzあたりはハイハットらしさが出る部分、8kHz以降は倍音のコントロールになる。ただしこの辺はリズムのアラも目立つ音域なので、生ドラムよりも打ち込みドラムで使いたい。
HISTIBE PUNCHY EQING
punchyとは"迫力がある"という意味。2ヶ所のブーストにより迫力を出しているプリセット。
640Hzと2kHzの2ヶ所は楽器の軸となる音が集まりやすい帯域。よってここを上げれば迫力が出る。ただし他の楽器を間引いたり上手い事住み分けを作る必要がある。
一歩前へと出したい楽器に使うと良いかも。
メインのプリセット(後半)
こちらもフォルダー分けがされていない、メインのプリセットたち。
なぜかブブゼラ用のプリセットが3つも用意されている。深まる謎。
ブブゼラといえば10年前の2010年のワールドカップでみんなブーブー吹いていた非常にうるさいホーンの事。でも実際のところ横で吹かれると騒音性難聴を引き起こす事もあり、国際的に問題にもなった。
Vuvuzela insert 1
こちらはそんなけたたましいブブゼラの音の周波数をカットするためのプリセット。
というのも、テレビで放映したりする際にブブゼラがうるさすぎて問題になり、ブブゼラの周波数をカットする需要が出てきたのだ。
ブブゼラの基音である200Hzあたりをノッチ、その後もブブゼラの波形が大きくなる部分に対してこれでもかとばかりにノッチが入っている。ブブゼラに相当恨みのある人が作ったプリセットなんだろうな、という感じ。
Vuvuzela insert 2
こちらは「Vuvuzela insert1」で除去しきれなかった高域にフォーカス。どれだけブブゼラが嫌いなんだ…。
総勢20バンドを駆使してブブゼラを徹底除去。
Vuvuzela insert 5
急に3、4をすっ飛ばして5になるブブゼラシリーズ。
完璧に消されたブブゼラだが、かなり多くノッチを作ったので音がボコボコ、言うなれば未舗装の道のようになっている。ここにコンクリートで固めるがごとく、浅めのQのフィルターで埋める。
1,2,5とブブゼラインサートを使う事でブブゼラ対策はバッチリ、という感じである。でも最近ブブゼラって見ないな…。
まとめ
プリセットは大きく分けると「ここから始めるよ、何でも対応できるよ」というデフォルトやリファレンスのようなタイプのものと、「このプリセットはこれ専用」というような用途を絞った専門的なタイプのものがある。
前者のデフォルトタイプのものはとりあえず全トラックインサートしておいた状態を保存しておけば、毎回の作業時間の節約にもなる。
後者の専門的なタイプのものは、役割をよく理解して正しく使う事が望ましい。解説が無いと分かりづらいものもあったし自分的にもよく分からん物があったので、自分用の覚え書きも兼ねて今回調べてみた次第。
※資料が英語だったので、間違っている部分等がありましたらご指摘いただけると助かります。