DTMを使う人なら認知度ほぼ100%の「Waves」から新しいプラグインが出たらしい。
出たらしい、とか言って実は発売開始してから2週間くらい経つんだけどね…いや…知ってたよ…。
新たに出たのは「Abbey Road Chambers」。
あの「Abbey Road」シリーズの最新作でございます。
Abbey Roadって――?
え…知らない…だと…。
ここだよ、ここ!ロンドンのアビィ・ロード!
いや、この写真よりもこっちのほうが良いか…。
そう、Beatles!さすがに知ってるでしょ。イギリスのロックバンド、Beatlesが愛用したスタジオがこのアビィ・ロードの近くにありまして。愛用するあまり、アルバムの名前をアビィ・ロードにしてリリースしたこともある。で、これがその時のジャケット。
だからアビィ・ロードもしくはアビィ・ロード・スタジオと言えば、即ちBeatlesの代名詞となる。
このアビィ・ロード・スタジオでは、ここでしか再現できない音の雰囲気や空気感があるとされる。事実、このスタジオにしかない機材もあって、それは今の時代もロック好きを惹き付けている。
所謂ヴィンテージのぬくもりやノイズ感、音楽的に言うならば独特の倍音成分や残響、そういう点でやはりアビィ・ロード・スタジオならではの味があったりする。
とにかく、アビィ・ロード・スタジオは現時点で世界でもっとも名前の知られているレコーディングスタジオと言っても過言じゃない。
Wavesが手掛けるAbbey Roadのプラグイン
そんなアビィ・ロード・スタジオの名機たちをプラグインにしちゃいました!というWaves。アビィ・ロードで使われている値段が付けれないほど高額な実機たちをモデリングしたものをセットにして「Abbey Road Collection」として売ってるんだけど、なんと今ならセール中で35,000円で買える。
安すぎて逆に「え、アビィ・ロード・スタジオをバカにしてるの?」ってくらいの攻めた価格設定。あと僕としては安すぎるとどうも性能が不安なんだよね。ある程度高い方が信頼できるというか。
でもWavesはガチで開発しておりまして。
もちろん本家アビィ・ロード・スタジオとも密接に連携しまして、Wavesのスタッフも何度も現地へ行ってるし、テストではアビィ・ロード・スタジオの機材を熟知したエンジニアをWaves本社へ招いたり。
プラグインにも結構「●●風の~」みたいな実在する名機を模した物は多いんだけど、このWavesのAbbey Roadシリーズには「Abbey Road」って冠している以上、相応のプライドを感じる。WavesとしてもAbbey Roadとしても「へぇ、こんなもんか」って思われたくないだろうしね。
Abbey Roadシリーズの最新作、「Abbey Road Chambers」
そんなAbbey Roadシリーズに新たに「Abbey Road Chambers」が加わりました。
アビィ・ロード・スタジオには、オーケストラも入れるような第1スタジオ、バンド向きの第2スタジオ、その他の楽器を録る小さめの第3スタジオの3つがあって、第2スタジオの横に「エコー・チャンバー」という空間が併設されております。
エコー・チャンバーは簡単に言えば人工的に残響を作り出す目的で作られた部屋。
部屋の中にスピーカーとマイクを置いて、録り終えた音をスピーカーで鳴らして部屋の中で充分に反射させて再びマイクで拾う、というモノ。原理だけ聞けばシンプルで分かりやすい仕様。
もちろん「どこにスピーカーを置くか」もしくは「どこにマイクを置くか」でその残響の深さもレベルも変わるし、実際にコントロールルームにある機材のツマミまでセットでいじれるようになっております。こちら、セール期間につき3,380円でございます。ふざけてる。(褒めてる)
実際に使ってみた
さて。実際に使ってみるとしましょう。
こういうヴィンテージ系プラグインは往々にして「確かに完璧に模してるんだろうけど現代の音作りに全くマッチしない」⇒結局使い道が無い、という事がある。
いくら黒電話に歴史的な価値があれど現代には無用、というのと同じ。でもそれも含めて使ってみないと分からない!というわけで実際に使ってみました。
使用曲
「蜜会」 / メトロホログラフィー。
手前味噌だけども、僕が作詞作曲した曲で使ってみる事に。
ジャズテイストを取り入れつつも邦楽ロックな風味があり、アビィ・ロード的には真逆を行く感じがすごい。もっとメロトロンとか入れた乾いた音のするUKロックにしようよー。
もちろん、敢えてこの曲にしました。さっきも言った通り、僕としては自分の作業環境で使いづらいプラグインは必要ないのです。コレクターではないので。
というわけでこのミスマッチでどう力を発揮してくれるのかを見ようと思います。
①スネアドラムの処理
まずはスネアドラムに使用。Abbey Road Chambersをザザーっといじってみた結果、ドラム用リバーブとして使えるのではないか、と。
調整前
というわけで、まずはスネアドラムにインサート。
スネアドラムのトップマイクとボトムマイクを混ぜたステムトラックに差し込んでみる。
設定
リバーブタイプをデフォルトの「CHAMBER 2」よりも反射音がキラキラしている「MIRROR」に変更。鏡張りのイメージみたいで、キラッキラ。やりすぎるとキンキン反射しまくってうるさい。
反射させる前にテープエコーもプラス出来るんだけど、こちらはゼロに。ローのフィルターだけちょっと入れて、リバーブのタイムはちょっと短めにしてゲートみたいな効果を狙う。
あとは聴いてみて、スネアのアタック音のしっぽがぼやけ過ぎない程度に調整。
調整後
スネアに深みが出たというか、胴が鳴っている感じが出てきた。
「タァーン」の間の"ァー"のあたりに倍音成分が入って前にプッシュされてる感じ。ここがミラーで反射された複雑な響きがキラキラっとしてる部分に当たる。調整前はちょっとドライすぎるかな、って音だったので。
②バスドラムの処理
続いてバスドラムにも入れてみる事に。
バスドラム調整前
ちなみにセオリーとしてはリバーブ系エフェクトはあんまり低音域の楽器に入れない方が良くて。なぜなら低音が膨らむと音の輪郭がぼやけて、低音がヨレヨレになっちゃうから。あんまり良い音とは言えないし、ミックスの馴染みも良くない。
とか言いつつ、バスドラムにぶち込む…。
設定
今回のリバーブタイプはデフォルトの「CHAMBER2」。マイクを壁に向けて設置して、反射音を拾いやすくする設定に。
RS106上の設定で、余計なローをカット。今回は70Hzあたりから下をカット。ハイは結構ガッツリめにカットしてて、5kHz以上にフィルターがかかるようにしております。
スネアとのバランスをとるためのリバーブなので、あんまり目立たない程度に。
ウェット比率もかなり低めに。
バスドラム調整後
「ドン」って音の尾ひれがちょっと長くなって、なおかつバスドラムの音そのものが丸みを帯びたような音に。
ただし、例えば今回ならばバスドラムの音が2拍目で完全に消えているようにしたかったので、そのタイミングになるようにリバーブ量は調整しています。
③ドラム全体の処理
バスドラムとスネアドラムにエフェクトをかけたところで、今度はドラム全体にもうっすらとリバーブをかける。
調整前(スネアとバスドラムのみ調整済み)
ドラムのトラックを一つのステムにまとめて、そこへインサート。ステムに使うことで、潤滑剤のような感じでまとめてくれる。
設定
今回も「CHAMBER2」にしました。設定は割とアクを強めにして、最終的にウェット比率を下げて調整。結構攻めたリバーブサウンドに仕上がりました。
(逆に言えば、ウェット比率23%でこの音になるので、フルレンジで使うとかなりエフェクティブなサウンドも作れそう。)
調整後(ドラムステムのエフェクトON)
ドラム単体で聴くと結構攻めて聴こえるので、最終的に全体の音のバランスを見つつ調整していく感じ。
今回はエフェクトの差を見るために割と分かりやすく調整しております。
④ピアノの処理
意外と楽器にも使えるんじゃないか、ということでピアノに使用。
オルガンやギターにも合いそうだけど、それは結果が見えてるので割愛。
調整前
ピアノもバラードなら合うと思うんだけど、こういうハイテンポな曲だとどうなんだろう…という感じでインサート。
設定
今回はシンプルにチャンバーの鳴りを活かす感じの設定に。
下部のS.T.E.E.D.とフィルターはほぼいじらず。
スピーカーを壁向きにして壁に反射させたのち、マイクで拾うシミュレーションに。
調整後
他の楽器も入った状態にしてみました。ドラムはさっきの状態のまま。ドラム単体で聴くときよりもリバーブが目立たなく感じるのが分かると思う。
ピアノはリバーブ感が出たというよりはダブリングに近いような厚みをプラスした音に。アンサンブルの中でもちょっと手前に抜けてくる音になりました。
実際に使ってみて
意外と汎用性のあるプラグインだな、というのが率直な感想。
だってもっと限定的なシーンにしか使えないのかと思ってたから、意外と懐が広くてびっくり。
他のプラグインにも言えるけど、「このプラグインはこうだから」って決めてかからずに色々と実験してみると面白いかもしれない。意外な新発見があるかも。
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