透明人間。SFモノなんかでは昔からよくある手法で、小さいころなら憧れる存在にもなり得る。
未来から取り寄せた道具か、はたまた怪しい薬によるものか。由来は数あれど、体が透明になる効果は実現できるのか、もしくはフィクションの域を出ないのか。その辺を考察する。
透明人間の定義
まず、「透明人間」の定義を定めなければならない。
基本的には文字通り体が「透明」である必要がある。
透明という事はすなわち光の吸収も反射もしない、という事になる。
光の吸収と反射
物質は光を吸収したり反射したりする。
物質が特定の波長を吸収すると、その反対色(補色)として視覚する。
もしくは特定の波長を反射する事で、その色を視覚する。
海が青いのは青色に当たる波長を反射するからで、葉が緑なのは赤色を吸収するからである。
色の認知
光の波長により、認知する色が異なる。
光はすなわち電磁波の一種であるからにして、電磁波の波長を色として認識する事となる。
この色彩は受け手側に委ねられる感覚であり、元来"光"そのものに色があるわけではない。ゆえに、赤と青の境界線(赤紫と青紫の境界線)が人によってズレていたり、動物ごとにも色を感知できる波長の幅が異なる。
透明とは
前述のように、いかなる波長の電磁波に対して反射も吸収もしないものが「透明」と呼ばれる。
(尤も、人間に対してのみ透明であれば良いので、電磁波の中でもX線や紫外線等は反射及び吸収の反応を問わない。色として認知出来る波長のみ透明であれば良い。)
透過の種類
①物質すら透過する
これぞ究極体。いわゆる幽霊等の類いに対してこちらのイメージを持つ方も多いはず。
壁をすり抜け、体は透けている。(もしくは半透明)
原理は置いておくとして、もし透明ならばいささかフィクション的な側面が垣間見える。
例えば、壁をすり抜けるのに床や地面はすり抜けないのか。
もし床もすり抜けるのならばずっと浮いている事になる。もし着地している霊体を部屋で見かけたとしたら、すなわちずっと重力に逆らい続け空気椅子状態で潜んでいる、とんだマッスルをお持ちだという事になる。
いずれにせよ、もし重力の影響を受けるとするならば、力を抜けば重力により地中にめり込みマントルの一部と化しているだろう。すべての物質を透過してしまう以上、どこかで座って一休みすら出来ない。
もし仮に重力の干渉を受けないとしたら、海の中のクラゲのように留まる事無く流動する。それこそ宇宙飛行士のように何かに捕まっていない限りはふわりと漂い続ける。
ましてや地表には風があるので、延々と風に流され続けるハメになる。
よって、物質の透過もする透明人間は存在が極めて難しいと思われる。
②物質は透過しない
こちらもとりあえず「どうやって透明になったか」は置いておくとして、物質を透過しないタイプの透明人間。
こちらの方が前者よりもずっと現実的で、物質として「存在する」という事になる。
よって、壁にはぶつかるし、床(地面)の上を歩く事も出来る。
逆に言えば、何かをすり抜ける事は出来ない。つまり存在はそこにあり、単に視覚的に認知できない状態である。
ここから先の話はこの②の前提で進める。
人体を透明にする
最低限の難しい話を書かせてもらった。それではメインディッシュ。実際に人体を透明にしていきたい。
前述の透明に関する定義を用いつつ、広義的には相手から知覚されなければ透明だと判断したい。
既に透明な部位から考える
実は人体の中で既に透明な部分がある。角膜、水晶体等の目のレンズ部分は透明である。確かに透明じゃなきゃ色付きの世界になっちゃうしね。
しかし、だからと言って別にここから透明人間を応用できるわけでは無い。臓器が透明だったりすれば使えそうなんだけど…。
目以外の透明な部分としては、胎児の周囲を囲う羊膜がある。こちらのおかげで母体が胎児に対して拒絶反応等が起こらない上に、薄く丈夫である。ゆえに移植等の際に応用されている。
が、羊膜で覆ったところで透明になるわけでは無い。こちらも今回の考察には使えなさそうだ。
映像を投影させる
プロジェクターのようなもので背景を照射すれば擬態出来る、という発想。
つまり光線を対象に当てる事により、光学的に擬態出来る。
実際に本体が透明になっているわけでは無いので、擬態の一種である。
見る方向によってはバレバレなのと、近距離には不向き。
光を吸収させる
こちらは光を吸収する素材を全身に纏う必要がある。
色として認識できる電磁波波長の吸収=真っ黒、となるので厳密には透明とは異なるが、一番現実的であり実現可能な手法ではある。レーダー等のセンサーは回避しやすい。
光を屈折、歪曲させる
実現にはかなりのエネルギーが必要となり一番現実的では無いものの、計算上は最も理論的に説明ができ、かつ透明人間的でもある。
光を透過する
シンプルに説明のしやすい、いわゆる一番最初に思い付くタイプの透明人間である。
目の構造上*1、自分も光を透過してしまうので視力はゼロとなる。
視覚が残っているとしたら懐中電灯等で照らされれば目のあたりで光の屈折が起こるので、存在がすぐバレる。
とは言え、ある程度欺けるので実用されれば重宝はされそう。実用されれば、だけど。
めっちゃ発光する
色が認知できないくらい光っちゃえば良いのでは?という暴論。
透明人間になれているかどうかはもうこの際置いておくとして、周囲との境目も区別できないので確かに相手からは認知されない。
だがこれで良いのか。
世界を救うために旅に出る事にした勇者が一切冒険をせずに、魔王城に隕石を落として平和にしたようなズル感が拭えない。
ズルい。本筋からズレている。
真っ暗にする(相手の視界を奪う)
周囲もろとも視界を奪う。暗視カメラ等には映ってしまうので、ある程度の可視光線外の波長も吸収する必要がある。
こちらも根本的に違う。仮に何かを達成したとしてもなんだか「透明人間になれたぞ!」感が薄い。というか無い。
実はそもそも無理
ここまで言っておいてアレなんだけど、人間には体温がある。
そう、熱放射があるのだ。
よって、どれだけ透明になろうと、サーモグラフィーで見ればすぐにバレる。
光を透過していようが吸収していようが、体温を外気温と等しくしない限りはバレる。
だが、まぁわざわざサーモグラフィーや暗視カメラで見ないと判別できないくらいのところまでは何とか費用や材料次第では出来そうな感じもする。
なお、透明にする関連の技術は世界大戦時に世界中で研究されていたので、興味がある人はそちらの軍事技術関係を検索されたし。
何か斬新なアイディアがあったら聞いてみたい。
透明になってみたいじゃん?そうでもない?
ただ、誰でも彼でも透明になる事が出来たら困ってしまう。つまり、透明になる技術が一般的に実現可能だと分かってしまうと悪用されてしまうリスクがある。
実はもうとっくに透明になれる技術があるんだけど、そのリスクを恐れて「実現不可」って言い張っているとしたら…?
ちょっと夢があるSFの話。
*1:取り込んだ光を眼球で屈折させて網膜で像にする