ねこらぼ( 'ω')

名古屋でこそこそと活動っぽいことをしている橋本ねこのブログ( 'ω')

自己意識と寄生


§1

ハリガネムシという虫がカマキリに寄生しているのは有名な話だから、知っている人も多いだろう。

 

ハリガネムシは水中で生まれ、水生昆虫に食べられる。厳密には噛み砕かずに飲み込むタイプの虫に取り込まれ、そのまま留まる。

水生昆虫が羽化して陸に上がってカマキリなどに捕食されると、ハリガネムシもそのまま次の宿主に寄生する。

そのまま一緒に過ごし、宿主が死ぬと尻から脱出したりする。カマキリの死骸からニョロニョロと長い虫が出てくる、みたいな話は聞いたことがあるかもしれない。

 

なお、ハリガネムシはカマキリのお腹の中でじっとしているわけではなく、時にカマキリの思考を操作し水に飛び込ませることが分かっている。

こうしてまたハリガネムシは水中に戻り、子孫を増やす。

 

 

お腹の中で共生するような寄生ではなく、思考をもコントロールする寄生はまるでSFに出てくるゾンビかのよう。

外見は同じ見た目でありながら、その思考は「内なるもの」がコントロールしている。これはちょっとゾッとする話だ。

 

しかし昆虫界隈では意外とある話。

例えば冬虫夏草という虫の幼虫に寄生する菌類(キノコの仲間)がいる。

幼虫が土に潜った時に感染することがあり、感染すると菌は内側からどんどん養分を吸い取り、夏になるといよいよ地面から生えてくる。「冬は虫だが夏には草になる」ということから冬虫夏草というネーミング。他の植物だと種からにょきっと茎が生えてくるが、冬虫夏草はその種にあたる部分がそのまま幼虫の外観を保っているのもまた自然のグロテスクな部分である。

 

また、蝉の行動をコントロールするマッソスポラ菌も知られている。

蝉の下腹部からどんどん侵食し、尾部と腹部は完全に菌と入れ替わって真っ白になる。この状態でも変わらず動き続ける上に、活発に求愛行動と交尾行動を取るようになってしまう。

しかし、実は菌に侵された時点で生殖機能は失ってしまっている。この交尾行動によって菌がどんどん他の蝉にも感染していくという、まさに蝉の性病のような菌である。

もちろん菌に侵された蝉はやがて死ぬ。が、下腹部を侵食された速度に比べると緩やかに最期を迎える。これは蝉をコントロールし、菌をバラまいてもらうための戦略と言える。ただ菌で侵し殺すだけではなく、他の蝉へ菌を散布させてから息の根を止めるという、鮮やかで恐ろしい策略だ。

 

§2

上記の例のように宿主の元の思考回路を乗っ取り意のままに操る菌や虫の対象は昆虫に限った話なので、怖いには怖いが「対岸の火事」である。

しかし実は人間も例外ではない菌やウイルスもある。

 

例えば狂犬病。感染した人間は水を怖がるような行動を取るという。これはまさに思考が乗っ取られていると言える。

また、狂犬病のウイルスは感染した動物の口腔内に多く存在するため、このウイルスに侵された犬が「狂ったように何でも噛み付こうとする行動を取る」というのは、ウイルスを増やして感染を広める点で理にかなっている。

 

トキソプラズマに感染したげっ歯類は恐怖心が無くなり、猫などのハンターにわざと食べられるようになると云う。

これらのようなウイルスによる感染元のコントロールは「数を増やしたい」という目的に合致する。

 

§3

「思考を乗っ取られる」もので身近な例えで言えばやはりゾンビになるのだが(身近…?)、自分の体でありながら自分の思考が及ばなくなったらと考えると恐怖を覚えるのは自然な事である。

 

しかし、よくよく考えると自分もそうなのではと思ってみる。

自分の体になんかこう魂として宿っている今まさにこのブログを書いている思考は、果たして本当に元々自分自身のものだろうか。

指は本当にタイピングをしたがっているだろうか。もしかしたら目はこれ以上モニターを見続けたくないのではないか。指の意思、目の意思は、果たして今この思考を司っている自分を名乗るものと合致しているのか。

 

そう考えると、指からしてみたら自分の考えとは裏腹に好き勝手に操られているとも見れるのでは。

脚もそう。口をモグモグしたりするのもそう。

 

逆に。心臓は独自の意思を持っているかのように動いている。汗も勝手に出るし、消化も勝手にされる。

これは面白い。彼らには彼らの意思があり、思考の支配の及ばない所で動いている。

おや、実は自分は自分の体が自分だと思っているこの思考に乗っ取られた状態なのではないか。という事は今自分だと言い張るこの思考は、この体の本来の持ち主ではないのかも?