ヴィジュアル系というジャンルは外から見ていても内から見ていてもやはり特殊だ。
ただの音楽ジャンルを意味する言葉ではなく、ファッション、立ち振る舞い等の文字通りヴィジュアル面も重要視される。
それは言うなればライフスタイル、生き様そのものである。ある種でロックやパンクとも通ずる。
ただ、ロックやパンクと違う部分としては、ジャンル定義が他のジャンルと比べて異様に曖昧であり、現在進行形で変化し続けている点がある。
メイクをしていればヴィジュアル系というわけでもないし、逆に専門のライブハウスに出ていたり専門誌に載っていてもヴィジュアル系と呼ばれることを嫌うバンドもいる。
そんな他の音楽ジャンルとは一線を画すヴィジュアル系。
最近、ふと、「足りないモノを埋め合わせに来ている」人がほとんどなんじゃないかなと考えるに至った。
足りないモノとは
「足りないモノ」とは何か――
それは非日常だったり刺激という言葉で定義できるかもしれない。
愛情が何かを理解できず、愛が足りないのかもしれない。学校で友情に恵まれず、仲間が足りなかったのかもしれない。どこにも居場所が無くて、夜の轟音の檻の中に居場所を見出したのかもしれない。
心を満たすのが目的だったり、心が解放されるのが目的だったり。
足りないモノの中には、本当にもう「欠損」「障害」と診断が付くようなものから、ライト・カジュアルなものまで様々。
別にここでゾーン分けをする目的は無いので一律して「足りないモノ」とした。それに名称が付くかどうか、一般的か特殊か、軽微か重篤か、それはここでは大きな問題では無い。
集会する夜
ライブハウスで公演が始まる。
ここでは、出自も、年齢も、本名も、学歴も、友達の人数も、付き合った人の数も、親がいるかどうかも関係無い。稼ぎは関係あるかもしれない。
誰もが本当の自分に仮面を被せ、束の間の別世界へ身を委ねる。
何とも魅力的なんだろうか。
まるでネットゲーム、MMO*1のよう。
匿名掲示板のようでもあり(事実、匿名掲示板と親和性が高い)、仮想空間のようでもある。
そんなメタバースのような幻想を享受し、周囲の者もしくは舞台上で相対する者と共感する。
現実世界の中にあたかも別世界のような居場所を形成する。これって意外と簡単に出来そうで出来なかったりする。
それは現実から身を守るためのシェルターになり、現実から逃げるための避難所にもなる。
観る側、演る側
観る側もそうだが、実は舞台上の人たちもひと癖ある人達が揃っている。
僕は色々なジャンルを渡り歩いたが、ヴィジュアル系がずば抜けて「変わった人」が多い。
オラオラ煽るようなステージングをしているのに常識人、とか。めっちゃ怖くない?どっちが本当の顔でも良いんだけど、例え演技であってもその真逆を自分から出すことが出来るのって怖い。ある種の才能。
逆にステージではあまり目立たなくて職人気質みたいな人なのに、人格崩壊している人とか。真っ当な仕事をしていなさそうな人、楽屋の隅っこでしゃがんで何かをぶつぶつつぶやいている人、枚挙に遑が無い。
まぁだいたい総じて"ひと癖"ある。どの角度から見ても一般的ではない人が揃っている。
もちろんきっとその環境に身を置いた自分だって一般的では無いのだろう。
だが、往々にして本人にはその自覚が無いものだ。当たり前だ。自分に接する時間が一番長い人間は自分なのだから。そりゃあ自分が"普通"に感じるだろう。
だし、「こいつら皆ヤベェな」と思ったとしても、大なり小なり「自分は他(このヤベェ奴ら)とは違うぞ」とも思うはずなのね。皆が皆そう思っているはず。
しかし結局は同じ穴の狢。
本当に全く関係無い外から見れば、そのライブハウスに集まっている人間は皆一緒くたに同類に見えるはずだ。
でもそれで良い。ここに居る時点で他者からの目線なんざ気にしない。そうだろう?
*1:Massively Multiplayer Onlineの略。主に、同時に大人数が接続してリアルタイムのやりとりを楽しむゲームを指す。