Wavesの自動フェーダー調整系プラグインである「~Rider」シリーズに新作が出た。
今までに「Vocal Rider」「Bass Rider」と出ていたが、今回は「Playlist Rider」。今回もプロのエンジニアが無意識でやっているような隠し味を簡単に行ってくれるプラグインとなっている。
どんなプラグインなのか
簡単に言えばオートレベラーであり、設定したパラメーターを基準として自動でフェーダーを動かしてくれる便利なプラグインである。
Vocal Rider等と同じように、コンプレッサーではないため圧縮はしない。入力されたレベルを自動で調整する。
様々なトラックをまとめた最終段階での使用を意図してデザインされていて、音楽制作よりも配信・放送・動画等のオーディオの編集に適している。
例えば、「ナレーション」「BGM」「効果音」の3種類のトラックがあったとする。
「ナレーションの無いセクションではBGMが前に出てきてほしいけど、ナレーションのあるセクションではBGMには引っ込んでいただきたい」と思うだろう。それを最小限の設定で自動で行ってくれる、というプラグインだ。
ラジオで言うならば、パーソナリティの横にいるミキサー(音響)さんと同じ役割をしてくれる。
見た目
サイバーな見た目。プラグインの見た目も大事な要素のひとつ。
もちろん音には関係の無い部分ではあるけども、創作は色々な所からインスパイアを受けながら進めるもの。こういう見た目の部分で何かしらの影響を受けたりモチベーションやテンションが上がったりすることもある。
パッと見た感じ、やや複雑そうな見た目でシンプルには見えない。が、実際に設定するパラメーターはわずかだ。
使い方
①様々なトラックやチャンネルをまとめたバス(もしくはマスタートラック)を作る。
②PLAYLIST RIDERをインサート
③"TARGET"を設定する
④"TONAL CHARACTER"のON/OFFを決める
⑤ドラックやチャンネルを1つずつ再生しながら、それぞれの音量を調整する。この時、"INPUT"の上部の光がだいたい緑色になるようにする。
⑥"ATTACK"と"DETECTOR THRESHOLD"を調整する。
という流れ。調整に用いたパラメーターは4つのみだ。
各パラメーターについて
INPUTセクション
プラグイン左側にはインプットのセクションがある。
上のライトは"SENSE"(入力感度)。
音が流れてくると、このライトが点灯する。適正レベルは緑色。
ライトが付かないくらいの入力しかないならば、それぞれのトラックに戻ってライトが点灯するまで音量を上げる。逆にライトが黄色ならば入力が高すぎで、赤色ならば完全なオーバーロードとなる。
"Detector threshold"(検出境界値)でどの音量からレベリングを始めるかを指定する。
この指定したdBを超えると補正の対象となり、下回るとバイパスされる。補正後のターゲットとなる音量ではないので注意。
つまり、-36dBに指定すると、これを上回った音が大きくなったり小さくなったりと補正されるようになる。-36dBを下回る音はそのまま何も補正されずに再生される。
これは不要なノイズを一緒に底上げしないために役に立つ。補正してほしいナレーション、BGM、効果音等は全部このスレッショルドを超えるようにしなければいけない。
また、上手い事BGMのフェードダウンやフェードアップをこのスレッショルド以下にすれば、不自然な検知による音量の揺らぎが無くなる。
スレッショルド付近は穏やかに変化するような、いわゆるソフト・ニーとなっている。
すぐ左のメーターにて入力音量が確認できる。
検知されて補正対象となった部分は赤色で表示、取りこぼされた音量の部分は青色で表示される。
Detectorセクション
中央下半分の円はラウドネス・メーター。
比較的短時間の測定をするShort termと一定範囲すべての平均値を出すLong termの2種類が表示される。どちらも補正前の数値となる。
ラウドネス・メーターの説明はとてつもなく長くなる上に専門性が強いので割愛するが、特に放送業界ではピーク・メーターも然ることながらラウドネス・メーターも重視される。
TARGETセクション
プラグイン中央ではターゲットとなる音量を指定できる。この数値を目標として作動する。
-24、-18、-14から選べる。もしくは上部の+と-のボタンでも1単位で増減できる。
単位はLKFS(Loudness K-Weighted Full Scaleの)。ラウドネスメーターで使われる単位で、dBとはまた別物。同じ感覚で扱えるけどもね。
K-Weightedという種類のフィルターを用いた測定方法で、こちらも専門的すぎる内容なので割愛。簡単に言えば、より人間の聴覚特性に近いメーターということになる。なお、LKFSとLUFSは同等の物と見做す事が出来る。
目安として、テレビやCMは-24LKFSが基準、SpotifyやApple Music等*1は-14LUFSが基準となる。
放送は人の声やその他の短い音等によって音のレベルの差が大きいので、抑え目のLKFSとなっている。音楽はなるべく大き目のLKFSにする傾向がある。
-14LUFSを超える設定は過剰となるが、実際リリースされているCDは-8LUFSだったりとかなり詰めた作り方をしている事もしばしば。
もちろんそれぞれの基準を超えてパッケージしても良いのだけど、例えばテレビでは強制的に-24LKFS程度に調整されてしまう。こうなると逆に小さく聞こえてしまうような現象が起こる事もある。昨今のミックスではこのラウドネス・メーターも意識する必要がある。
音楽としてなら-14、放送用なら-24あたりに合わせて見ると良い。
GAINセクション
中央上半分の円は"GAIN"を表す。
このパラメーターは調整出来ず、このプラグインに入った音がどれくらい増減されたのかが視覚的にチェックできるセクションである。
OUTPUTセクション
ここはプラグインを通った結果が表示される。
"SHORT TERM"の数値での表示と、メーターによるdB値での確認が出来る。
ここのSHORT TERMの数値がだいたい中央のTARGETで定めた数値あたりになると思う。うまくいっていない場合、最初の入力が大きすぎるか小さすぎる可能性が考えられる。
下部セクション
プラグイン下部では"ATTACK"と"TONAL CHARACTER"のパラメーターが設定できる。
GAINの動きが速すぎる場合には、ATTACKをSLOWにすればなめらかになる。
逆にGAINの動きが遅い場合にはFASTを選ぶ。
TONAL CHARACTERはオンにすると出音にクセが付き、音素材ごとの聴こえが良くなる。
具体的にはピンクノイズと同等の周波数特性がほんのりと付く。簡単に言うと低音の輪郭がくっきりとするのだが、それが功を奏すかどうかは素材次第。適宜ONとOFFを選ぶ。
使えるプリセットも用意
いくつかプリセットも用意されている。「Classical」「Jazz」「Speech」等の名前があり、直感的に選びやすい。他にもYouTube向けのセットなどもある。
こちらのプリセットを選び、微調整をするだけですぐ整う。
価格
まだ発売したての製品だが、早くもセール中。
また、Playlist Riderのリリースに合わせて、放送・配信向けのプラグインがセットになったバンドルパック「Content Creator Audio Toolkit」も発売中。
単体だと17.000円が現在はセール中のため、14,800円。
Playlist Riderを含む4つのプラグインのバンドル「Content Creator Audio Toolkit」は通常¥36,000円。現在はセールで19,000円。*2
まとめ
各種音楽系のDAW上だけではなく、様々なワークスペースでの動作確認がされている。
Adobeの動画制作系ソフト等も対応。パソコンにとって非常に負荷のかかる動画をクリエイトする際に、動作の軽い「Playlist Rider」は非常に便利だと思う。