そういえば、小学生の頃は「書き初め」という宿題があった。
これがまた誠に面倒臭い宿題で、なんせ準備も片付けも一苦労。それを思うだけで食指が動かない。
でも今思うと、なんて風流で豊かな習慣なのだろうと思わなくもない。
ただ、小学生には早すぎたのだ。
書き初めについて
書き初めは新年になって初めて毛筆で字なり絵なりを書くイベントの事を指す。
ペン等で書くものは含まれず、もっぱら毛筆。いわゆる「お習字」としての体裁を成したものを書き初めと呼ぶ。
始まり
平安時代(794年-1185年)の宮中行事が起源と言われているが、文献は見当たらず。まぁでも確かにやってそうではある。
日本書紀(720年成立)の記述によると西暦610年の時点で既に墨を作っていたとされ、平安時代には宮中ではある程度容易に墨などのツールが入手できたのではと推察。
江戸時代になればご存知寺子屋にて読み・書き・そろばんが行われていたため、もはや書道は一般に浸透していると言える。この時代に「書き初め」という言葉が出てきたとされている。
やり方
若水で墨を摺り、恵方に向かって詩歌を書く、というのがトラディショナル。
江戸時代に入ると庶民にも広まり、書く言葉も多様になったとされる。
若水
伝統的な手法を取るならば、まずは若水が必要だ。
若水:立春の日に宮中の主水司(しゅすいし/もいとりのつかさ)*1から天皇へと献上された水。
ここから転じて、元日の朝に初めて汲む水の事を指すようになった。邪気を払うとされ、神棚に備えたりする。
その後、その水で食事を作ったり茶をたてたりすることで、邪気払いの効果を取り入れる。平たい言い方をすれば聖水である。
この邪気払いの効果を持った若水を用い、墨を摺り、書き初めにも使うというわけだ。
現代のように水道インフラが整い蛇口をひねれば水がいくらでも出てくる時代になってからはこの習慣はすっかり廃れたが、井戸水を組む地方や神社などでは活きている習慣である。
恵方
年によって恵方と呼ばれる吉方位がある。恵方巻のあの恵方である。
恵方は十干によって決まるが、次の4種類のうちのいずれかとなる。「東北東」「西南西」「南南西」「北北西」となる。
厳密には24方位に分けて考えるため、上記の16方位とは若干ズレがある。
書き初めのその後
書き初めで書いたものは左義長と呼ばれる小正月の火祭りで燃やす。この時に炎が高く上がると書が上達するとの謂れがある。
現代
現代では冒頭のように学生の宿題として行われている。抱負をしたためたり好きな言葉を書く。新しい一年を始めるにあたり、前向きな言葉をチョイスする事が多い。
最近、毛筆を使った?
書道の教室に通っていたり趣味としていない限り、まずそもそも家に筆が無いかもしれない。
かく言う僕も持っていない。最後に使ったのはバンドのイベントだっただろうか。
書をしたためる機会はちょっと逃してしまったが、今年のスローガン的な物を考えるのも良いだろう。
それもまた、一つの書き初めの捉え方だ。
そういえば最近ではデジタルアートの普及により、さらに毛筆の出番が減ったと聞く。
あの筆の独特な味みたいなものは国内外問わず人気ではあるが、実際に書いたものをキャプチャーしているわけではなくデジタル上で完結している場合すらある。
毛筆も「古臭い道具」になってしまうのだろうか。カセットテープ?何それ?みたいな。
記号として、もしくはアイコンとしては知っているが実物は触ったことが無いものってどんどん増えてくると思う。保存のマークのフロッピーディスクとか。
たまには筆を執ってみたいなぁと思う。別に字が綺麗なわけではないけど。
大人になると「○○したいなぁ」と思っても、時間や日常に忙殺されてしまって流れに飲まれてしまう。
こういった「ゆっくりと時間を使う」ような贅沢も取り入れていきたいと思っている。思ってはいる。
*1:主水とは飲み水のこと。司は職務(官司)のこと。水や氷の調達等を司る役職。