あからさまに格式高いルックス。
一目でタダ物じゃない事が分かる。
これがレジェンドレアの風格。
色からしてブランデーとかそういう類いかと思いきや、なんとカテゴリーは日本酒。
ふむ、貴醸酒というらしい。
貴醸酒
琥珀色のお酒は、まるで古酒のよう。日本酒にも古酒の概念はあるが、この貴醸酒は古酒とはまた少し毛色が違う。
水の代わりに"酒"を使う
最も特徴的な点として、仕込み水の代わりに酒を使う点にある。
"三段仕込み"という三段階の醪(もろみ)造りの工程の中の最後の工程である"留添え"にて、水の代わりに酒を使って醸す。
日本酒造りに於いて水は米と同じくらい重要である。それぞれの蔵元が水道水ではなく、専用の水質の良い水――いわゆる"仕込み水"というものを用いる。
貴醸酒では酒を使って仕込みを行う。水で酒を醸していくのではなく、酒で酒を醸していくのである。
もちろん仕込みに使う酒も安酒ではない。とても贅沢な製法である。
呼び名
貴醸酒という名称は、貴醸酒協会に加盟していないと使用できない。
非加盟の酒蔵では「三累醸酒」「再醸仕込み」等と呼ばれているらしい。
日本独自の高級酒を目指して
貴醸酒って貴腐ワインみたいだな、と思っていたら本当にそこから由来しているらしい。
「日本でも日本独自の高級酒を」ということで開発されたのが1973年のこと。
現在では、迎賓館や海外からVIPを招いた際にこの貴醸酒が振る舞われたりするらしい。確かにそれはレジェンドレアだ。
「2011141719」について
数字の秘密
意味深な数字の並ぶラベル。
2011141719…2011は年っぽさがあるので、そのまま日付説が浮かぶ。
しかし次の"14"で引っ掛かる。14月は無い。ので、一桁ずつ月と日として、2011年1月4日か。
ちょうど4ケタ余るので、17時19分として…。
2011年1月4日17時19分と読み解いたが、これが何を意味するのか。この貴醸酒の生まれにしてはピンポイント過ぎる。
ネタばらしをすると、2011年、2014年、2017年、2019年と4つの貴醸酒をブレンドしている事に由来するらしい。
なので、2011、14、17、19、となり、2011141719という名前になったとか。
2011といえば10年も前のことである。10年もの歳月を超えた貴醸酒は、もうすっかりヴィンテージと呼んでも良い古酒である。
それぞれの特徴的な4種のお酒をブレンド…カッコよく言えばアッサンブラージュ*1したもの。果たしてどんな味がするのか。
そんな貴醸酒を作ったのは榎酒造だ。
榎酒造
先ほど、貴醸酒を名乗れる貴醸酒協会という名前を出した。
ここの中心となっている酒蔵、そして貴醸酒を商標登録した酒蔵こそが、この榎酒造である。
広島県、呉市音戸町にて1899年に創業。明治時代だ。
様々な日本酒造りをした倉であり、戦前から品評会で賞を取っていた。
1974年に全国で初めて貴醸酒を醸造。ここから現代まで貴醸酒界を牽引し続けている。
スペック
「2011141719」は日本酒。
分類としては精米歩合70%の純米酒となる。
そして、白麹を用いたオーク樽貯蔵の貴醸酒である。
アルコール度数は14%。
日本酒度は-50であり、極めて甘口。
酸度は4.0%とやや高め。
飲んでみる
貴醸酒は冷やで行くべきか、熱燗か、はたまた常温か――。
「純米酒」のセオリーで行くなら冷やが良いだろう。キリっと冷やして口の中でまろやかさを味わいたい。
悩んだあげく、ひとまず常温で行ってみる事に。微妙なら冷やすなり加熱するなりすれば良い話。
グラスに注ぐ前に、ボトルに鼻を近付ける。
この得体の知れないアンバーカラーのお酒。未知のお酒はまずは香りから。
――ん?
奈良漬けの匂い…?
もう一度嗅ぐ。そして断言する。奈良漬けだ。
奈良漬けの匂いのする液体がおいしいのかどうかのイメージが出来ないが、飲んでみる事にする。
グラスに注ぐと、綺麗な琥珀色だ。
さて、それでは奈良漬けのような匂い――つまり酒粕の匂いを感じながらいただく事にする。
飲んでみると、思いのほかおとなしい味わい。
香りを超えた向こう側は、まろやかで舌触りも良く濃淳で甘くおいしいお酒だ。
日本酒との共通点もあるが、もはや別物である。
酒粕の香り、そして飲む直前にはアルコール臭、しかしそれらを超えて飲むと重厚で何とも高級感のある味わい。
徐々にこの酒粕の香りも気持ち良く感じる様になってきてしまう。泥沼へようこそ。
甘さ、酸味等が複雑に織りなすハーモニーだが、その余韻はフワッと消えていく。
そう、これだけの要素がありながらもクドくないのだ。
この粋なお酒を前に肴など不要、ピアノの音があればそれで良い。
*1:仏:Assemblage=混ぜ合わせる、の意。特にワインの原酒をブレンドする事をこう呼ぶ。