分かっていた話ではあるのだが、最近転職エージェントの倒産が多いらしい。
こちらの記事では「コロナ禍前と比較して4倍」とさも凄まじい数かのように紹介しているが、実際のところ2019年に4件、2023年に16件、ということらしい。母数が少ないのが気になるが。
何が起こっているのか
にしても、それだけ厳しい業界になっているというのは事実。
まずは転職エージェント界隈について。
ネット広告や電車広告でも「転職」に関する広告は多く目にすることだと思う。
大手だと「doda」「リクルートエージェント」「マイナビ転職エージェント」などがあり、もちろんこちらは今も倒産せず現役。
こういった目に付きやすい大手に隠れて、中小の転職エージェントがたくさん存在する。
名前も知らないような、なんかよくわからない会社や関係会社も結構な数あると見ている。
実は転職業界は凄まじいレッドオーシャンなのである。
転職に対するイメージ
「転職」というと、さも輝かしい新しい道に思えるだろう。
しかし現実的に考えると、どの企業も一長一短。相性や何やらもあるが、結局はガチャみたいなもんだ。
転職に関する広告の多くは、
- 今の環境に危機感を持たせる(「このままで大丈夫?」など)
- 次の環境に期待感を持たせる(「新しい仕事へ羽ばたこう」など)
- 敷居を下げ、間口を広げる(「皆やってる」「あれ?お前も?」など)
の3つ。
まずは①現状を下げるか、②未来を上げるか、が大まかなテーマとなる。
ここは転職に対するイメージを良い物にするため。
そして③は転職を身近に感じてもらうため。多くの人にとっては転職は自分には関係の無いイベントである。そんな"転職"をどれだけ距離の近い周囲でも起こっているものだと感じてもらえるかは重要だ。
そして、転職エージェントの広告は「もしこの転職ガチャのレアゲット率が上がるとしたら」というおいしい話である。
確かに自分で企業を分析して体一つで飛び込んでいくよりは、企業を熟知してマッチングしてくれる転職エージェントの方が労力も時間も節約できる。
需要の高い転職エージェント
こうして求職者側から「転職したい」という声を集めるのも大事だが、紹介できる企業を揃えておく必要もある。
大手企業はこういった転職エージェントに頼らずとも毎年余るほどの新卒が入るが、中小企業はそうもいかない。
ハローワークや転職情報サイトに掲載をして受け身で待っていても応募自体が少ない。
と、ここで受動的に職を斡旋しに行ってくれる転職エージェントの出番。多くの場合、費用も「入社が決定したとき」に発生するようになっているので、掲載するだけで費用の発生する求人サイトと比較するとコストパフォーマンスにも優れる。
というのも、大手企業と中小企業での採用の仕方に違いがある。
大手企業は大勢来た玉石混合の新卒や中途等から見極めていけば良いのだが、中小はそもそも選ぶ母数が少ないため、願わくば"石"よりも"玉"に来て欲しいのだ。
前もってある程度の"玉"を厳選してくれる転職エージェントは、この面でも中小企業と相性が良い。
何が問題なのか
ここまで転職エージェントの話を見ていくと、企業にも必要とされ、そして求職する人にもニーズがあり、引く手あまたの需要と可能性を感じるように思える。
しかし、そんなおいしい話。「じゃあ自分も始めて一儲けしようかな」という輩は絶対に出てくる。
タピオカ、高級食パン、デリバリーサービス、からあげ店…敷居が低く需要がある業種は、色々な人が一儲けを狙い参入する。
新卒や中途等の入る側が玉石混合なら、やる側だって玉石混合というわけだ。
コロナ禍において、転職エージェントはひときわ活気づいた。
それまでも将来が不安な層はどの時代にも一定数いるので既に大手は台頭していたが、コロナ禍になり雨後の筍のようにポンポンと増えた。
そうすると、何が起こるか。
そう。質の悪い転職エージェントが増えるのだ。
そして今、こうした転職エージェントがどんどん淘汰されている。
どう集客するか
前段の通り、企業は人不足で転職エージェントを頼ってでも人が欲しい状況。
しかもコロナ禍で優秀な人材も離れたりしているため、即戦力が欲しい。
そんな企業と求職者・転職希望者を結び付けるのが転職エージェント。
大手の転職サイトだと転職希望者が自ら登録をしてくれるけど、中小の転職サイトだと知名度もないのでそうもいかず。
じゃあどうするのかというと、そういう転職をしたがっている見込みのある人のリストというものがちゃんと出回っていて、それを参照するという手法が主流となっているようだ。
一昔前のグレーなテレアポのようであるが、まぁ現実としてこういったリストは有料で売買されており、転職エージェントは費用をかけて閲覧するなどして顧客情報をゲットしている。
リストの売買の是非は置いとくとして、一見するとこのリストを使用した集客は別に問題なさそうだが、こういった共用リストには致命的な問題が2つある。
まず一点目。こういったリストに載っている求職者に対して、既にほかの転職エージェントからのオファーやスカウトが多くかかっている可能性が高いのだ。そのため「あー、もう大丈夫です」と言われて電話口のみで終了してしまう事が多い。
もう一点。このリストに載っている人の動機までは管理されていない。つまり、リストに記載があるからといって「現職に不満を持ち」「転職意欲が高く」「何が何でも次の職を見つけたい」というわけではないのだ。
そう、僕みたいに。
実際に転職エージェントと話してみた
コロナ禍以降、僕はなんと転職エージェント3社と話す機会があった。
1社目
ZOOMでオンラインミーティング的な物をすることになった。
というか僕は別に転職したくないのだが、ただ単に転職エージェントに興味があったため積極してみることにしたに過ぎない。まさに先ほどのリストの問題点の二点目に当たる。
ZOOMで現れたその男は、少しウェーブの有るツヤツヤの髪、やや焼けた肌、やたら圧を感じる目、というスタバで仕事をしていそうないかにもな出で立ちだった。
画面の背景は名刺のようなデザインで自分の名前やこれまでのキャリアが表示されていた。
「どうやって自分を見つけたのか」に興味があったため聞いてみたが、「あなた様の才能を拝見した人が、他社様に噂したりして広まったものを、我社のリサーチ部門が見つけた、という経緯になります」と言われた。へぇ。なんだそれ。
あとは、色々聞き出されるので色々答えていく。「へぇ!それはすごいですね!」とか言われる。まぁまぁそりゃどうも、と思いながら話を進める。
中々本題に入らないな、とちょっと飽きてきた頃、「――で、ですね、今回紹介したい企業というのが…」と本題に入ってきた。
「スーパーマーケット、いわゆる小売業ですね」
え?なんて?なんで?
例えば「高校時代にスーパーで働いてました」とかあったらまだ関連性があるんだけど、僕の職歴の中でスーパーおよび小売業での勤務体験は1秒も無い。
しかも別に誰にでも分け隔てなく笑顔を振りまけるような仕事は向いていない。
こいつ、どういう分析でスーパーを吹っかけてきた…?試されているのか?
そのあとはなんか微妙な空気になりつつ、オンラインミーティングは終了した。
その後連絡を取ることは無かった。なんだったんだあいつ。
ここから導き出した答えとしては、ただ単にスーパー側(企業)から「人が欲しい」というオファーがありとにかく数を打っていただけでは、というものである。
だって僕は高卒だし、世間的な目線で捉えるならば20代なんて遊んで過ごしていたような甲斐性のない男である。
そんな男をターゲットにしてわざわざオファーをしてくる企業がいるだろうか?いやいや坊や、答えはノーだよ。
これは何も自分を卑下しているのではない。客観的、一般的に考えた妥当な推論だ。
2社目
そんなファーストコンタクトから1ヶ月も経っていない頃、「よければお話だけでも」と二匹目の虫転職エージェントから声がかかった。
今度は楽しませてくれよと思いながら話を進め、「前回は全く経験も縁も無い仕事を紹介されましてねぇ」と先に釘をぶっ刺しておくという先制攻撃も忘れなかった。同じ展開なら時間の無駄だからだ。
ただし、どうやって僕を見つけ出したかに関しては一社目とほぼ同じような事を言われた。
なんだかんだ街中のカフェで実際にお会いし、なんと実際に企業にも足を向けた。
その男は例によって例の如く、髪を艶めかせ、目の力が平均より強く、少し肌を焼いた色をした、社交の場が好きそうな男だった。
今回紹介してくれた企業は、僕も知っている飲食店を手掛ける企業だった。まぁ確かに僕は飲食経験はあるし、悪いマッチングではない。
統括する部長様とも話をし、最終的に社長にお会いするところまで行った。
しかしここで社長に質問された内容に困ることになる。
「ここで働いて、何をしたいですか?」
え?いや、特にないけど…?
だって、僕は転職したくて転職エージェントと接触したわけじゃ…とまで考えてハッとした。
これは僕と企業の間で齟齬がある。向こうはあくまで僕が「職探し中で御社に入りたい人」として映っているのだろう。
そうか、そうなるならばミスマッチだ。むしろ僕の方としても「声をかけてくれたのはそちら」だという認識だったのだ。
その後、企業を後にし、また転職エージェントと暫し話した。
後日、企業からはお祈り連絡があった。まぁそりゃそうだ。別に僕は御社でどうこうしたい等は無い。
しかし収穫もあった。
転職エージェントの質問やアンケートには心理的効果が非常によく使われており、自分自身を見つめなおす良いきっかけにもなった。まるでメンターのようだった。
僕自身、何かを他者に相談するなどということは滅多に無い。誰かに悩みを話して解決したという成功体験を持っていないため、そもそも他者を頼る選択肢が存在しない。
そんな中、半ば強制的にメンター的立ち位置になってくれたこの転職エージェントにはここで感謝の意を表したい。
いやそれはここじゃなく直接示せよって感じなんだけど。その節は感謝。
3社目
まぁだいたい転職エージェントのことも分かってきたなーと思っていた折、三匹目の転職科エージェント目の新種の虫から連絡が来た。
もう転職エージェントはいいやと思っていたが、これだけは聞きたかったので聞いておく。
そう、「どうやって僕に辿り着いたか」である。
すると想定通り「あなた様を見たことのある方からの提言が」だの何だのと言う。
きっとこれはそういうマニュアルなのだ。「ああ、私が業者からリストを買ったらあなたの名前があったので!」とは言わないだろう。テレアポと一緒だ。
ということは断り方もテレアポと一緒だ。
「どうやって電話番号は知ったのですか?」と個人情報の入手手段について質問していくと、「ああ、この顧客は色々疑って聞き返してくる面倒な客だから再度TELはしないようにマークしておこう」となりリストから消されることになる。
そして「今、転職には興味が無いので」と意思を伝え、電話を終えた。
転職エージェントにとの相性
僕が実際にコンタクトを取った3社とのやり取りを踏まえるとよりイメージしやすいと思う。
転職エージェントも結局のところ「入社」を決めてもらわないと売上にならないので、多少無理をしてでも企業と求職者をマッチングしようとする。
そのため、自分の希望していない職種の求人を紹介されることもあるし、半ば強引に入社まで漕ぎ着けさせようとする。
ただ、「転職を成功させる」という点では求職者とエージェントの利害は一致するため、ここが本当にうまくかみ合うならば自分一人で動くよりも効果的と言える。
エージェントもボランティアではなくビジネス。
そのため、サッと入社が決まればより効率良く儲けになるし、そのためのアシストやサポートもたくさんしてくれる。
社長面談の際にもし伝え忘れたことや不手際があれば後からエージェントがさらりと付け足したりフォローしてくれたりするし、事前対策を教えてくれたりと抜かりない。
そのため、そういった恩恵を受けながら転職に挑戦していきたい人にはエージェントは向いている。
前提としての問題は「どうやって転職エージェントのリストに載るか」となる。
そして僕はどこからこのリストに載ったのであろうか。
転職エージェントの今後
転職エージェントの倒産が相次いでいるのは事実だが、僕としては増え過ぎたエージェントが適正数に戻るだけだと見ている。
ビジネスチャンスだとばかりに飛び込んで増え過ぎてしまった転職エージェント。しかし転職希望者も増えているとはいえ、エージェントの増える勢いの方が大きかったであろう。
それがまた、元のバランスへと戻っていくだけである。
自然界でも植物が増えすぎると草食動物が多くなり過ぎる。そうすると肉食動物が増える。ただ、肉食動物が増えすぎると餌が無くなるので肉食動物は減ってしまう。
そうすると食べられる事のなくなった草食動物が増える。今度は植物が足りなくなってしまい、餌が無くなった草食動物は数が減る。
そして食べられる事がなくなった植物はまた元の数に戻る、という。
こういった自然の循環は、色々なところで目にする。増えすぎたもの、減りすぎたものは自然と元の数に戻っていくのだ。
タピオカ専門店の数が落ち着いたように、転職エージェントは今後もまだまだ数を減らすだろう。
しかしそれは自然な数に戻るだけの話だ。
僕は転職エージェントに対してさほど悪い印象は持っていない。
というか本当に玉石混合である。本当に味方になってくれるエージェントならば心強いが、残念ながらスキルもノウハウもない適当なエージェントもいる。
願わくは転職希望者が良いエージェントと出会い、素敵な転職ライフを送らんことを。