
土鍋を手に入れた。
土鍋でご飯を炊いてみたくなったのだ。
土鍋で炊く意味
土鍋でご飯を炊くのは何となくおいしそうに感じる。
料亭でも土鍋で炊いたご飯が出てきたり、釜飯って普通にご飯を食べるよりもおいしく感じたり。
ちょっと特別感がある土鍋。しかし土鍋と炊飯器では確かに味は変わるという。
普通の炊飯器との違い
炊飯器と土鍋――実際のところ、何が違うのか。
素材の違いもあるが、一番の違いは「火を使う」点にある。
電気だけの力で炊き上げる炊飯器とは熱源が異なる。ほら、たこ焼きも家庭用の電熱ホットプレート式の物で焼くよりもガス火で仕上げた方が旨いと云う伝承がある。
ただし、土鍋は途中で火力を調整する必要がある。放置するだけで仕上がる炊飯器よりもこの点のみ手間が掛かる。
炊く前の準備
土鍋を用意する
まずは土鍋を用意する。土鍋は何でも良いが、炊飯に特化した物も多く出ているので、そちらがオススメである。
今回買ったのは「ごはんや讃(さん)」という土鍋。
今ではちょっと違うバージョンのものが売っていたり。
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3,000円台で買えるので、炊飯器よりは随分と安い。
こちら以外にも他のメーカーからも出ていたりするので、気になる人はチェックされたし。
さて、それでは見様見真似、行き当たりばったりで土鍋を用いてお米を炊いてみようと思う。
ごはんや讃について
至って普通の土鍋だが、ご飯向けに特化している。
まず、そのフォルム。

通常の土鍋の底は丸みを帯びているものだが、こちらの土鍋は平ら。
また、側面も寸胴気味になっている。炊飯器の形状に似ている。おそらくこの形状の方が熱が伝わりやすいのだろう。水の対流もしやすそうだ。
お米を炊くうえで均等に加熱されるのはとても重要。一ヶ所に熱がこもったり偏ったりするのはノーグッド。
そして蓋が2枚。
外蓋と内蓋がある。

外蓋と内蓋で蓋が2重になっている。
これによって、吹きこぼれ防止だったり、保温性をより高める効果があったりする。
気密性も高くなるため圧もかかりやすく、お米に特化していると言える。
土鍋の内側には2本の線が入っており、1.5合、3合の水量の線を示している。

1.5合、3合で炊きたいときは便利。
計量さえしっかり行えばお好みの分量で炊く事は出来るが、水を入れた時の高さが7割を超えるようだと吹きこぼれのリスクが高まるため、それ以下が推奨される。この土鍋で言えば、それこそ上の線の3合が最大量か。
お米を計る
お米を正確に計る。それはそれはもう正確に。
ここでミスると色々とズレてしまうので、慎重&正確に。
お米は「ななつぼし」を用いる。
北海道米であり、比較的安価に入手可能なブランド米だ。味のバランスも良く、気に入っている。
お米を研ぐ

お米を研いでいく。お米の研ぎ方は色々あるが、共通して言えるのは最近のお米はさほど汚れていないのでそこまでガシガシとしっかり洗う必要は無い。
なお、土鍋を長時間水に浸けておくのはあまり良くないため、ボウルなどを用いてお米を研ぐ。ボウルの内側にザルをかませておくことで、水切りが容易だ。
この時の研ぎ汁は流しへと捨てずに土鍋へ入れておく。理由は後述する。

全体を満遍なくかき回し、マッサージするように研ぐ。
お米を研いでいる時にもぐんぐん吸水してしまうため、手早く水を捨て、つぎ足す。これを3回ほど繰り返したら、手早く水を全て切る。
お米を浸水する
この工程は非常に重要だ。お米に十分な量の水を吸わせる。
ただし、吸わせすぎも良くない。
目安は夏場は30分程度、冬場は60分程度だ。これは気温と水の温度が関係する。
土鍋は吸水性が良く、あまり水を長時間入れておくと水を吸ってしまうし、匂いも吸ってしまう。
水を吸うとずっと水気のあるままとなり、酷い場合はカビが発生する事も。鍋物の出汁も吸ってしまうため、匂いが付く原因にもなる。洗った後もしっかりと水気を切る必要がある。
そのため、土鍋ではお米の浸水は行わない。
浸水している間に鍋底も湿潤する。その状態で火に当てるとヒビ割れの原因となり得る。
面倒な人は土鍋でお米を浸水させても良いが、土鍋を少しでも長持ちさせたいならばこういった所も気を配ると良い。

ボウル等に計量した水を入れ、そのままお米に水を吸わせる。
なお、水の量は1合につき200mlを目安とする。硬めが良ければちょっと水を少なめに、柔らかめが良ければちょっと水を多めにする。
今回は1.5合を炊くので、水は300mlとなる。少し硬めが良いので290ml程度とした。
「目止め」を行う
さて、お米を浸水させている間に土鍋の準備を進める。
冬の時期のため、浸水は60分間。充分時間はある。
土鍋は、使用前に目止めというものを行う。
陶器全般に共通するが、買ったばかりの陶器は目に見えないレベルの凸凹や穴がある。
ここを予め埋めておくことでヒビの防止となり、長持ちさせることが出来る。
小麦粉や片栗粉等のでんぷん質のものを水に溶き、その中に目止めをしたいものを入れて加熱する。加熱する事ででんぷんには粘りが生まれる性質があるが、それを使って陶器の表面をコーティングしてしまうのである。
陶器の目止めは毎回行う必要は無い。が、最初の一度だけで良いというものでもなく、半年~1年に1回程度行うと良いとされる。
また、陶器の利用前には必ずしも目止めを行わなければならないというわけではない。ただし、陶器の中でも土鍋は水気のある物に接する時間が長いため、目止めした方が良い。
というわけで、こちらのご飯用土鍋も目止めを行う。
今回は丁度良いことにお米の研ぎ汁がある。小麦粉や片栗粉と同じく、お米の研ぎ汁にも多量のでんぷんを含む。
こちらを火にかける。

あまり強火でやり過ぎないこと。土鍋は急激な温度変化に弱い。
中火くらいでコトコト、10分くらいで対流も激しくなる。
さらに10分加熱すれば表面に泡が立つ。これくらい行えば十分でしょう。
その後、しばらく冷ます。

冷めてきたら水を捨て、水気を取り乾燥させる。
目止めが終わるとなんとなくツルっとした見た目に変化したような。そうでもないような。

これで下準備は完了となる。
お米を炊く
浸水度合いをチェックする
そうこうしていると、お米の浸水時間が完了。

お米が透き通った状態から乳白色へと変化したのが伝わるだろうか。
お米自体も膨らんでおり、しっかりと吸水が出来ている。

浸水完了したら、このお米と水を土鍋へイン。

しっかりと中央に火が当たるよう、土鍋の置き場所を入念にチェック。
それでは火を点ける。
最初は強めの火力で
「はじめちょろちょろ中ぱっぱ…」的な言葉を聞いたことがあると思う。
ただし、これはかつて薪火の竈でお釜を使っていた時の炊き方であり、飯盒炊爨の炊き方である。
土鍋で炊く場合は①最初に強めの火力で沸騰させ、②沸騰したら火力を落として炊き上げるという手順を踏む。
この沸騰までの時間は室温と火力にも左右される。
今回は1.5合炊きなので、中火にて火入れを行う。少なめの量の場合はそこまで火力を強くしなくても大丈夫。

とりあえず沸騰させる。2種類ある蓋のうち、外蓋のみを付ける。その方が沸騰したかどうかが分かりやすいからだ。
外蓋すら付けなければもっと分かりやすいのだが、それでは沸騰までに時間が掛かり過ぎてしまう上、表面からどんどん熱が逃げてしまう。そうすると底部は熱々なのに表面は冷たいまま…と温度差が出来てしまう。
なるべく熱をこもらせて、均一に沸騰させていきたい。
目安は目と耳にて。
コトコトと小気味良い音を立てながら温度は上がる。
やがて蓋の穴から蒸気が出始める。程なくして音はボコボコとした泡が破裂するような音へと変化し、蒸気も盛んに出始める。

これが沸騰の合図。今回は約9分半を要した。
火力を落とし、炊く
ここで一瞬外蓋を開け、内蓋をし、外蓋も被せる。
その後弱火へと火力を落とす。沸騰をキープする火力にしておきたい。

蒸気がずっと出続けるくらいの火力を維持する。
ここで15分ほど火にかけ続ける。中身が気になっても蓋は取らない事。
次第にお米の炊ける良い匂いが立ち込める。
この炊けるまでの時間ほど、待ち遠しいものは無い。
中の状態をチェックする
時間になったら、中の状態を確かめる。
水分が残っていたら加熱不足である。目安として、表面や側面に泡が付いていたりベタつきが強いようであれば、まだ水分が残り過ぎている。
この場合、追加で数分加熱⇒チェックを繰り返す。
無事に炊けていれば、蒸らしの工程へと進む。
お米を蒸らす
蒸らす前に
蓋の開け閉めで下がってしまった温度を再度高めるため、軽く加熱する。
10秒~20秒程度で良い。
その後火を止め、蒸らす。
蒸らす
蒸らすのはだいたい10分程度。
変化が見えづらいため蒸らしの工程を軽視する方も多いかもしれないが、芯までふっくらとした食感に炊き上げるために必須の工程だ。

そして10分が経てば完成である。

この色、そして甘い炊き立ての香り。
2回目の蒸らし
しかしここでもうひと蒸らし。
蒸らした後は蓋を開け、お米を鍋底から持ち上げるようにしてかき混ぜる。
これにより、土鍋の中で偏った水分バランスを整える。鍋底のお米の方が水分量が多く、表面のお米の方が渇いているため、かき混ぜることで均一にするのだ。
また、鍋底に溜まった不要な水分を飛ばすためでもある。
全体を切りながらかき混ぜたら、蓋をしてあと5分ほど放置。
ようやく完成だ。
炊き上がり
炊飯器だとスイッチ一つなのに、土鍋だとこれだけ手間暇がかかるのかと思い知る。
それだけに炊き上がりの喜びもひとしお。

一粒一粒がピンとしており、初回にしては良い炊き具合だ。
インターネットの大海原を漂う英知に感謝。
ご覧の通り、おこげも出来ている。
これは火を使わないと出来ない、炊飯器では出来ないお楽しみである。

おこげが嫌いな人は沸騰後の加熱時間をシビアに調整する。香りが立ち込めた後、音が変わる前に火を止めればおこげは出来ない。
おこげが出来る時にはチリチリと音がするため、それを目安とする。この辺は勘と経験が必要そうだ。
実食
ご飯を椀へとよそい、餐とする。

炊飯器の米でも十二分に美味しいななつぼしだが、土鍋を用いる事でより甘味が出た気がする。
もっちり感もこちらの方が上で、香りも良い。
総合的に土鍋の方がお米本来のポテンシャルを引き出す事が出来ているように思う。
ただし、炊き加減のコントロールと手軽さは炊飯器に軍配。
忙しい日々の中で大量にご飯を消費する方には難しいかもしれないが、時には「今日はじっくり、土鍋でご飯を炊くか」とするのも良いかもしれない。
なお、炊いた後に余ったお米はそのままにせず、おひつなどに移すように。
前述の通り、吸水性・吸湿性の高い土鍋に食品をそのままにしておくのは推奨されない。
あとがき
わざわざ手間暇をかけることによるおいしさ、というものもあるのだと思う。
日本人とは切っても切れない縁であるお米。ライフスタイルに応じて、合う炊き方をすれば良い。
なお、今回の炊き時間をログとして残しておく。

昇降が逆順だが、
ラップ1:9分20秒…中火加熱(沸騰まで)
ラップ2:15分3秒…弱火加熱(炊き上がりまで)
ラップ3:10分1秒…1回目の蒸らし
ラップ4:6分37秒…2回目の蒸らし
ラップ5:0分1秒…止め忘れ
となる。
色々な文献があったが、室温や火力や熱伝導の具合、果ては米の銘柄によって微妙な調整が必要なのだと思う。
目と耳を使い、見極めていくのが一番。だんだん土鍋で炊くことにも慣れていこうと思う。