最近、料理を作るのにハマっている。
効率良くパパっと数品作るタイプではなく、休日に凝ったものを作るようなタイプだ。
最近のアレコレはこちらのブログを読んでいただくとして、先日シュトーレンを作った話と時事ネタを絡めた話でもしようと思う。
レシピと責任
シュトーレンを作る上で欠かせないのが「日持ち」の問題。
作ったその日に全部食べるなら別にそこまで気にしなくても良いが、長持ちさせたいのであれば製法には気を配らねばならない。
シュトーレンを作ったときのブログに、お日持ちの話をそれはそれはもう長文で展開させていただいた。
昨今ではイベント会場で売られていたマフィンがネバネバに糸を引いている等の食中毒事件も起きているとかなんとか。
僕に関して言えば、専ら売らずに自分で消費するだけだし、最悪お腹を壊しても問題無い。ただし、もし万が一僕の書いたブログのレシピをマネして作った人に健康被害があるようなことがあってはならないのだ。そこには実は気を使っている。
例えば。
件のネバネバ糸引きマフィンは生焼けだったうえ、腐敗しやすい食材を用いた事、さらに保管状況も良くなかったことで菌が活性化し、食中毒被害を生んだ。
もちろん作成して売った人が悪いのだが、しかし、もしそれが仮にネット上の誰が作ったかも分からないような怪しいレシピを丸々真似した結果だとしたらどうだろうか。
レシピ通りに作っても生焼けで、腐敗リスクが高く、保管についても言及されていなかったとしたら、それでも100%作成者が悪いのだろうか。否、僕はそういった不完全なレシピを載せた人にも責があると思っている。
もちろんレシピをマネするのは自己責任だ。参考にするのも自己責任。
調理器具や環境も違うのだから、完成品に誤差も生じる。
ただし、「小麦粉が生焼けだったらどういった問題があるのか」「砂糖を入れるのは味付け以外にどんな意味があるのか」といった知識は前提条件として作り手が持っておく必要があるとも思う。
素人のupするレシピをマネして調理を行う事って、結構なリスクがある。
それこそ個人経営の飲食店へ入るくらいの当たりハズレはある気がする。
そして僕もまた素人である。しかし、だからこそマネされても大丈夫なようにレシピには気を使う。
ネット上ではどこでどういった広まり方をするか分からないし、どういう切り取られ方をするのかも分からない。
レシピをどう信頼するか
大手食品メーカーのサイト等にありとあらゆる料理がまとまっているため、基本的にそちらを見ながら作れば大きな失敗をする事は無いはず。
ただ、サイトが大きくてもレシピ考案者やレシピを掲載した人が素人の方だったりする場合もあるため、注意が必要だ。例えばクックパッドは最たる例だと思うが、いかにもオフィシャルそうでも実はライターは企業じゃなくて個人だったりする。
個人だから信用できないかと言えばそうでもなく。
ある程度肩書きも重要そうだが、それよりも「他にどんなレシピを書いているか」「実際に自分(もしくは他人)が作って食べている様子が分かるか」の方が重要である。
他に書いているレシピによってその人の傾向が分かるし、実際に誰か先人が食して健康被害が無かったということが分かるのは重要だ。
冗談みたいな話だが、たまに完成不可な料理やどうやっても味付けのおかしい料理も存在する。
どこまで注意書きをするのか
僕も素人であるからこそ、ネット上に点在する有象無象のひとつとして、気を配っている。
しかし、やはり作り手にある程度の知識がある前提となる。でないと注意書きだらけになってしまう。
豚肉にはちゃんと火を通せ、鶏肉にもちゃんと火を通せ、生魚のリスク、魚の小骨がどうのこうの、電子レンジはメーカーによって差がある云々、火力は目安だの、時間は目安だの、※新鮮な食材を使った場合に限ります、だの……「んなもん書かなくても分かるでしょ、常識でしょ」と思っても、常識というのは人によって違うものである。
電子レンジに金属をぶち込む人もいるし、目に見えない細菌や微生物を信じない人もいるのだ。
責任の所在
というわけで、料理には前提として作り手にある程度の知識を求める事が多い。
共通認識で常識と思われるものを調理工程で端折って何かしらの被害が出た場合、レシピはその責を負う事は出来ない。
それはそうだ。加熱しないと食べられない生食禁止の食材を扱う時点でリスクはあるわけで。食材だって永遠に利用可能なわけでは無いし、完成品だって徐々に傷む。
ただし、だからといって無責任なレシピを書いていいわけではない。
そこはイコールでは結ばれない。
レシピだって、前提として完成品が安心して安全に食べられるものでなければならない。
双方に見えない前提が存在するのだ。これら前提を互いに守り、その上で初めて「じゃあ作った後の責任は作り手側ね」となる。
資格について
料理は自由であるべきだとは思うが、今回の件を受けて、より「売り物として料理を扱う場合の資格をもっと厳格にした方が良いのでは」と思うようになった。
食品衛生責任者
食品衛生責任者についてもトレンドに上がっていた。飲食店を構える上で、最低1人は必ずこの資格を持つ人が必要になる、いわば飲食店の中でもベースとなるような最低限必要な資格である。
僕も食品衛生責任者の資格を持っており、かつHACCP*1の研修も受けている。
ただし、上記2つとも試験は無く、講習に参加するだけで資格取得及び履修となるものである。
その性質上、真剣に受講していた人と寝ながら聞き流していた人では当然習熟度にバラつきがあり、一括りで「食品衛生責任者だから信用できる」「食品衛生責任者でも大したことはない」と語れない。
また、実践しているかどうかでも会得度合いは異なる。例えば車の免許を取った後に定期的に運転をしている人とペーパードライバーではスキルや知識・経験に差が出るのと同様である。
食品衛生管理者
食品衛生責任者に似ているが、性質も異なる。
なんとなく「責任者」の方が「管理者」より上に感じるかもしれないが、実は逆。責任を負うよりも実際にコントロールする方が高い技量を要するのだ。
こちらは食品加工等の段階での衛生管理を行う。どちらかというと食品工場とか加工施設とかそういう場面で必要とされる資格となる。
テストもあり、難易度もやや高い。「料理をする」という面から考えるとちょっと資格の毛色は違うが、衛生管理に関する知識や姿勢は信頼に足るものとなり、より説得力も増す。
調理師免許
作り手が資格の中で持っていると安心できるのは「調理師免許」だろうか。
実務経験が必要で、かつテストもある資格だ。ただ座って講習を受けるだけで取得できる資格とは違うし、国家資格でもある。
ただし、調理師免許が無くてもお店を持つことが出来るし、調理も担当できる。
そのため、「調理師免許がある=信頼できる」は成り立つが、「調理師免許がない=信頼できない」は成り立たない。
料理を見直す機会
一連の件で、料理というものを見直す機会にもなった。
身近であり、生きていく上で欠かせない料理。食事。
しかし、実際に口から体内へ取り込む性質上、それが安全でなければならない。
作り手は安全なものを作る責任が、レシピを発信する人は安全なものを発信する責任がある。
安全に、楽しく料理に向き合いたいところ。料理も食事も楽しいものであるが、それはこういった責任や取り組みのおかげでもあると改めて思うなどした。
*1:Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。危害要因分析重要管理点と訳される。一般的な衛生管理や完成品の検査に留まらず、重要なポイントでの継続的な監視と記録が加わる。