朝晩が冷え込んできた。そろそろ冷房に頼らずに一日を過ごす事が出来るかもしれない。
先日、美容室に髪を切りに行った。
髪を切るというのは、基本的にインドアで何でも家に呼び寄せる僕にとって数少ない外出要件となる。
そういえば、なぜ「髪を切りに行く」と言うのだろうか。自分で髪を切るわけでは無いわけだし、「髪を切らせに行く」か、もしくは受け身で「髪を切られに行く」とするのが自然だろう。ただし前者は些か偉そうな風合いが拭えない気もするが。
自分の身体にまつわる事だから特殊なのかとも考えたが、マッサージの場合は「マッサージしに行く」とは言わない。「マッサージに行く」と言う。ただし「マッサージされに行く」は一般的では無い気がする。
これについてはまたの機会にもう少し考えてみようと思う。
橋本ねこvs美容師
というわけで、美容室にて対価を支払い自身の髪を切らせに行った。
僕は美容室を転々としない。固定したい派だ。何故ならこれまでの素性を離すのが嫌いだし苦手だし面倒だからだ。
美容師の方々というのは揃いも揃って「お兄さん、何やってるの?」とか聞いてきやがる。まぁ当たり前だ。だってこちらの情報が無い状態では仕上がりをイメージしづらいから。僕にだってそれくらいの想像力と社会性はある。
美容師は会話の節々から様々な情報を得て、普段の生活や好きなもの、ライフスタイルを探る。
派手で目立つのが好きなのか。流行に乗るのが好きなのか。バキッとイメチェンしても良いのか。
ボーダーラインや自由度、キャパシティ。そういった物を探るため、半ば仕方なく、半ば無意識で質問攻めにしてきやがるのだ。
さて、ここまでの語調でお察しの通り、僕は人との会話が苦手だし嫌いだ。
特に初対面の人に対してプライベートをべらべらと話したくないし、何なら必要以上に自分をさらけ出すのは相手に失礼だとすら感じてしまうタイプだ。
だからこそ、数度行った美容室ではもう質問攻めに遭う事は無いし、僕の性格もある程度把握してくださるため、非常に楽なのだ。僕はその居心地を重視する。最初からさっさと雑誌を置いておいてほしい。
あと、僕のように経歴が特殊だと、自分の紹介にも悩む事が多い。
フリーターと名乗るのが性に合っていた時期が長かったが、フリーターと言うと「何か夢とか追いかけてるんですか」とか聞いてきやがる。
バンドマン、と言うと「?」という顔をする人が多い。「バンドやってるのは分かるけど、で、普段は?」とでも言いたげな顔をしているというかまぁ表情で全てを語っているのだが、別に本当にバンド以外何もしていなかったので混り気無しのバンドマンである。
途中から面倒臭くなってパティシエとか電気技師とか適当な事を言うようになったが、たまたまその美容師も「僕も昔ちょっとその仕事やってて~」とかほざいてくると非常に面倒なので、これはあまりやっていない。
逆に「個人で事業を興していて…」という話をすると、それは正解なのだが説明をするのが面倒臭いしあんまり理解は得られないしベストアンサーだとは思っていない。
だいたい「んーまぁ、、音楽とかやってて、、楽器を弾いたり、、はい、、」みたいな奥歯のみならず全ての歯に物が挟まったかのような歯切れの悪いトークを行う事になり、向こうも何を聞けば良いのかどういう方向性で進めば良いのか分からなくなって互いに押し黙ってしまうという状況が発生する。
幸いな事に美容師が黙ってくれるのは僕にとって都合が良いので、そのまま置いてくれた雑誌を嗜む等して時間を潰す事にしている。
美容師と戦うな
いやそもそも美容師と戦おうとするな。敵じゃない。
ごもっとも。戦う気は無いのだが、苦手だ。皆迄言うならば億劫である。
仕方ない話なんだけど、別に美容師もこちらの話を聞いてそこまで良いリアクションは取れないじゃない?前提としてカットに集中しているし、自分の知識外・専門外の話をされてしまうとどうしても「へぇーすごいですねぇー」としか言わない奴もいる。
思考が死んでいる方だと隣の人が話していた「昨日チャーハン作った」って話にも「すごいですねぇー」って言ってたから、とりあえず思考がクリアになるまで真っ当な休みを与えてやってくれ。チャーハンそのものが凄いという話ならば賛同するが、チャーハンを作る行為が凄いという話ならば色々な突っ込み所が誕生する。
僕は「その話をして、仕上がりに何の関係がある?」とか考えてしまう面倒臭いタイプである。
最近はまっている事を聞かれたので「スパイスカレー」と答えた。フェヌグリークがまったく見当たらなかった話も添えといた。案の定「へぇーすごいですねぇー」と言われたのだが、もう僕の中では「この話をする必要って無かったかな」と1人で討論をしている状態となっている。僕がフェヌグリークを見つけるのに手古摺ったことが、ヘアスタイルにどう影響を及ぼすのか。バタフライエフェクトレベルの影響であろう。もしくはインド人っぽくされるのか。インド人っぽくって何?
結局戻ってくる美容室
もう何回も何年も通っていて、何も言わずとも雑誌が出てくるという(あくまで「僕にとっては」)やりやすい空間を提供してくださる美容室がある。
僕の素性を説明する必要も無い。毎回仕上がりに対してとかやりたいスタイルに対しては意見をするので、そういった面でもなんとなく僕の好みを把握してくださっている。
回数を重ねると、それはそれはもうやりやすい。
しかし、ほんのちょっとの「あれ、なんか違う」という違和感で、往々にして顧客は別のお店を選んでしまうものである。
僕もたまに浮気して他の美容室へ行ったことがある。結局毎回説明が面倒なので1回限りな事が多いが、その説明の面倒臭さが相まって半年くらい同じところに通ったこともある。
でも結局元の所に戻るという。今行っているところはもう7年くらいになるだろうか。元々オーナー1人でやられていた所なのだが、今ではスタッフも大勢になり、オーナーさんを現場で見かける事は少なくなってきてしまった。
それでもカルテがあるおかげでやりやすいのだ。僕は正直誰が担当するかにそこまで拘りは無い。そう、どうせ喋らないからだ。「この人と会話が弾む」とか「趣味が合う」とかそういう概念が無い。かといって僕レベルではスタッフによる技術の差をそこまで歴然と認める事は出来ない。
しかし、久しぶりに戻ったときに「この前のパーマの感じはちょっとあんまり好きじゃなかったので」的な話をしたとき、「あれ…?ウチでパーマしたことありましたっけ…?」とか言われて気まずくなったこともある。
浮気バレの瞬間である。言葉は災いの元。
それはもう初めての場所
今回も毎度おなじみの場所で予約して髪を切られに行く。
今回は誰が担当するのか、と思っていたら知らんおじさんが居た。もう一人の女性スタッフも知らん。
もう一人のシャンプーを担当してくれたアシスタントが確か前回も居たような気がするという|朧気《おぼろげ》な記憶があるおかげで、辛うじてこの店が乗っ取られたという可能性だけは排除できる。
知らんおじさん、知らん女性スタッフ、多分見覚えのあるアシスタント、の3人構成でお届けする、いつもの美容室。
しかしそれはもう、初めての場所である。案の定、知らんおじさんから色々と質問攻めに遭う。それが嫌でここに来てるのに。
だが流石おじさん。何かを察したのか早々に雑誌を提供してくれた。
多分色々な人を見てきたのだろう。最小限の会話で僕のニーズを膨らませてくれたように思える。
結論から言うと、知らんおじさんは非常に良かった。無駄に首を突っ込んでこない適度な距離感、歴が反映された確かな技術。
次行った時も同じ人だとやりやすいかも、と思ってしまったくらいだ。
しかしどうしよう。次行ったとき、更に知らんおじさんが増えている可能性もあるよな。
結局それはもう、初めての場所。