チョコレートがフルーティーな味…?というのはもしかすると想像しづらいかもしれない。
しかし、チョコレートを語る上で出てくるフルーティーというワード。
香ばしさやほろ苦さ、甘みは分かるとして、フルーティーとは何なのか。
チョコレートはどうやって出来るのか
日本ではほぼカカオの生産をしていないせいもあり、チョコレートの製造工程についてはあまりにも認知度が低い。
「カカオという植物から採った実をどうにかこうにかすり潰していくとチョコレートになる」くらいの認識しかない人がほとんどだろう。
カカオを収穫する
カカオの実――いわゆるカカオポッドを収穫する。これはラグビーボールのような形をしていて、横幅は20cm前後でまちまち。
このカカオポッドがそのままチョコレートになるわけではない。最終的にはこの果実の中の種子にあたるカカオ豆がチョコレートとして使用される。
カカオ豆を取り出す
さて、収穫したカカオポッドは直ぐに中身を取り出すときもあるし、一旦そのままの状態で数日間保管する事もある。
こうする事でカカオポッド内でカカオ豆の発酵が行われるが、この工程を踏むかどうかは生産者次第。
そのままの状態で置いた場合、収穫してから数日経ったのちにカカオポッドを割る。
カカオポッドの中からは、白い繊維質であるパルプに包まれたカカオ豆が姿を現す。この時点では全然チョコレートっぽくない。
このパルプの中にカカオ豆がだいたい50個くらい入っている。
発酵させる
ここで重要な工程である「発酵」へ。
白い繊維に包まれたままだったり、カカオ豆を取り出してからバナナの葉でくるんだり。
床の上にゴロゴロ並べて行われたり、発酵槽と呼ばれる加温機のようなものの中で行われたり。
産地や加工者によって様々だが、いずれにせよ発酵の工程は欠かせない。
発酵は4日~長くて6日程度。発酵を終えたカカオ豆は茶色に変わる。
乾燥させる
続いてカカオ豆を天日干しにする。1週間~2週間程度乾かし続ける。
発酵したてのカカオ豆は水分が残っている状態。そんなカカオ豆の中に残っている水分を70%程カットする。
乾燥完了時にはカカオ豆はすっかりチョコレート色。やっとチョコレートが連想できるくらいになってきた。
焙煎する
乾燥したカカオ豆を焙煎する。いわゆるローストだ。
コーヒー豆のローストと同じく、注意を要する。ただ高温加熱をすれば良いというものでもない。
もしもカスみたいな豆があり発火してしまうと、周囲も焼け付くし全体に焦げた香りが移ってしまう。
また、焙煎にムラがあるのも良くない。結構難しい作業だ。
豆を砕き、皮を取り除く
こだわったショコラティエだと焙煎の終わった豆のままの状態で仕入れている場合もある。
しかしこのカカオ豆。このままチョコレートに出来るわけでは無い。まだまだ処理が必要だ。
カカオ豆にはハスク(外皮)があるので、これを取り除かなければならない。
ピーナッツの皮みたいにポリポリ取れてくれれば良いのだけど、意外とこれが頑固。
豆を砕いて風の力でハスクを吹き飛ばしていく。
豆を砕くときに細かく砕いてしまうとハスクは取り除きづらくなる。風を送ると豆ごと飛んで行ってしまうから。故に豆は粗く砕かなければならない。
ハスクを取り除く作業は、特に滑らかなチョコレートを作る上では欠かせない工程である。
カカオニブの完成
こうして、発酵⇒乾燥⇒焙煎の工程を経て、ハスクを取り除いたものがカカオニブである。
いや、厳密にはジャーム(胚芽)を取り除かねばならない。しかし廉価な物の中にはジャームが混入したものもカカオニブとして出回っている。
ともあれ、そういった諸々を取り除いた胚乳の部分こそがニブである。
ニブをすり潰してチョコレートへ
ニブをすり潰して滑らかにしたものがカカオマス。カカオには油分が多く含まれているので、すり潰すときに加わる熱も相まってドロドロに溶ける。
このタイミングで砂糖などの他原料を混ぜていく。均一に練り上げられていき、温度を高めて攪拌し、冷やし固めたらチョコレートとなる。
中にはモディカチョコレートのような特殊な製法のチョコレートもあるが、基本的にはこんな感じ。
カカオをチョコレートとして食するまでに、裏ではこんなストーリーがある。
チョコレートを表す言葉たち
チョコレートの味わいを表す言葉として、ビターさ、マイルドさ、スイートさ…などの甘さや苦さを表現する言葉はよく耳にする。
これらは同一線上に存在する言葉なので、いわば1次元的である。
ここからさらに、旨みと酸味の要素が加わる。旨みはその名の通り、甘さや苦さとは違うベクトルのおいしさ――いわばジューシー感である。
酸味は、端的に言えば酸っぱさとなる。酸味を感じるチョコレートは、「南国のフルーツ」のような味がする。例えるならばドライマンゴーとか。
この酸味こそがいわゆるフルーティーさとなる。
「カシスのような」「プルーンのような」「ワインのような」――この辺がフルーティーさを感じる上でのキーワードとなる。中にはそれこそマンゴーやパイナップルを彷彿とさせるチョコレートもある。
そんなフルーティーさを体験するのにお誂え向きのチョコレートがある。
それはビーントゥバーチョコレートである。
ビーントゥバーチョコレートとは
ビーントゥバー(Bean to Bar)とは直訳すると「豆から板へ」。
カカオ豆からチョコレートの板になるまでの製造工程を一貫して行う事を指す。
裏を返せば、このワードが注目される前は豆から仕入れるメーカーは少なかったということになる。
それまでは既に砂糖等が入った状態――クーベルチュール等の製菓用チョコレートを想像してもらえれば良い――のものを購入しているショコラトリーが多かった。
専門の業者がカカオやカカオニブを大量に仕入れて加工を一手に担う、という状況が大多数だった。
しかし、このシステムではカカオ製造国があまり儲かっていないという問題に直面する。カカオがあまりにも安く買い叩かれている、という話。
そして中には粗悪な原材料を使ったりする業者も。まぁ製造工程なんて正直ブラックボックスみたいなものだからね。
製造業者のうち全部が全部そうという訳でもないので、この話の信憑性は置いといて。しかしここから一気にフェアトレードへの意識も高まったように思う。
ちなみにフェアトレードの動きはコーヒーでも顕著。途上国に対しても公正な取引を、というモットーだ。
そんなフェアトレードの動きの中、チョコレートではビーントゥバーというワードが使われるようになった。
ビーントゥバーの流れでいくと、前に紹介したアマゾンカカオテリーヌもそう。アマゾンカカオを公正な価格で取引し、お店でカカオニブをゴリゴリと擦ってテリーヌに仕立てているという。
ビーントゥバーの良い所・悪い所
ビーントゥバーは割高なイメージがある。確かに価格を比較すると高くなる傾向はある。
が、途中の仲介・加工業者分のマージンはカット出来ているので、むしろ純粋な味のコスパは良い。
しかし大量生産はしていない(出来ない)場合が多く、メーカーによっては季節によってクオリティにムラが出たりもする。
これが「らしさ」となるか悪い点となってしまうかは、作り手次第。
いずれにしてもビーントゥバーはカカオの純度が高く廉価な混ぜ物をしていない場合がほとんど。こだわりが強く出ている分、価格にも比例してしまう。
ちょっとしたご褒美として頂くのが良い。普段からバキバキと食べるデイリーチョコレートにするには余りに贅沢である。
今回のお取り寄せ品
ソコラの「ビーントゥバーチョコレート」
ソコラ(SOCOLA)というチョコレート製造メーカーがある。
ベトナム南部のから取り寄せたカカオはトリニタリオ種。
カカオの品種は何種類かあるが、このトリニタリオ種は比較的新しい交雑種で味わいは上質とされる。
まだまだ生産量は少ないが、今後増えてくると思われる。
ベトナムのチョコレート?
もしかするとベトナムにはカカオのイメージは無いかもしれない。
未だに根強いイメージのガーナ。ベネズエラにペルー。――そういった南アメリカやアフリカのイメージが強いカカオだが、実は最近ベトナムのカカオ豆に注目が集まっている。
契機となったのは2013年のパリで開催されたサロン・デュ・ショコラでベトナムのカカオ豆が「カカオ・オブ・エクセレンス」*1を受賞。これにより、一気に注目される事となった。
ベトナム南部にはメコン川が流れ、この付近はカカオ豆の栽培に適している。気候も申し分なく、最近ヨーロッパ各国もこぞってベトナムにカカオ加工工場を建てているとか…いないとか…。
ベトナムでカカオ栽培が始まったのは2000年に突入した後と見られる。歴史としては浅いが、なんと国がプッシュしている政策となる。
植えるカカオはトリニタリオ種のみ。これも国策による。
こうして国を挙げたカカオプロジェクトが立ち上がり、そして結実したのだ。
ベトナムから直輸入
ソコラではベトナムから直輸入したカカオ豆を自家焙煎する。そしてハスクを取りカカオニブにし、すり潰してテンパリング。その後固めてチョコレートにしている。
まさにfrom Bean to Barである。
取り寄せてみる
いわゆるタブレットタイプのチョコレートをソコラのネットショップより購入する。
3種類のタブレットのセット。カカオ52%、カカオ72%、カカオ80%の3枚だ。
届いたのはシンプルな3つのパッケージ。
ハンドメイド感というかクラフト感が伝わってくる。
ソコラは他にも一口タイプのチョコレートやスティックチョコも取り扱う。
こちらは様々なフレーバーがあり、色々と楽しめそうだ。
食べてみる
カカオ72%:オーガニックビター
どれから食べようか悩んだが、まずはこの3枚の中の中間であるカカオ72%のチョコレートから。
72%というと結構ビターな印象だ。
封を開けた時点で、芳しい香りが立ちのぼる。
そして、食べてみると鮮烈な酸味。これこれ、この感覚。
レーズンを噛んだような奥行きのあるフルーティー感。洋酒のようなふくよかさも感じ、ちょっとラムレーズン的であるとも言える。
ベトナム産のカカオの特徴として、酸味が強いというのがあるそう。
それにしてもこの立ち上がる酸味…今までの板チョコとはもはや別物と思った方が良いかもしれない。
カカオ80%:ビター
今までのカカオ80%に抱いていたイメージは「おいしくない」である。
市販の製菓用ココアの粉末をそのまま口に含んだような無味感、そしてパサつき――とはいえ80%なので奥の方に甘みがかろうじてある、みたいな。
恐る恐る食べてみると、逆にまろやかさすら感じる。カカオ80%でありながら滑らかにするための添加物も入れてない。にも関わらず、こんなに滑らか。あら不思議。
ひとえに丁寧な加工の仕事によるものだと思われる。
ビターながら、嫌な苦み・雑味は皆無。
そしてこちらも華やかな酸味が楽しめる。
カカオ52%:プレミアムミルク
ちなみにソコラのチョコレートは、カカオ以外の材料は砂糖と乳成分となっている。
砂糖は北海道産甜菜糖、乳成分は北海道産全粉乳、という拘りようである。
カカオ52%になると、それらの副原料の色もしっかりと感じられるようになる。
上品な甘みとミルクリッチな味わい。後を引く甘さで素直においしい。
ただし、鮮烈なカカオの酸味はやや姿が見えなくなってしまう。
こちらに関してはプレミア感が感じられづらいため、少しコスパが悪く感じてしまった。いや、おいしいんだけどね。
タブレット1枚あたり46gと小振りながら、価格は1000円。
日常的に食べるには高いが、是非チョコレートの酸味を感じていただきたい。
特にカカオ成分高めのチョコレートはその価格に見合う体験となるだろう。
ベトナムのチョコレートを食べた事が無い人は、その酸味に驚くかもしれない。
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*1:「インターナショナル・カカオ・アワード」という国際的なチョコレート品評会の中の賞のひとつで、世界各地におけるカカオの多様性を称え、カカオの加工と品質の卓越性を総合的に評価する事を目的として開催されている。