前回に引き続き、今回も楽曲について解説をしていこうと思う。
毎週1曲ずつ公開されるドロドリ*1の楽曲。
今週公開したのは「あるものねだり」。
前回の「平行線」についてはこちら。
楽曲公開についての概要はこちら。
今回もなかなかに長い記事なので、こちらの目次から好みの項目に飛んでほしい。
あるものねだり――ドロドリの挑戦と実験
ドロドリの活動に際して――というかどの活動もそうなんだけど、挑戦と実験は常に意識して取り入れている。
実験というと実験台のようで聞こえの悪さはあるけども、逆に確信を持って動ける音楽活動はいくつあるのだろうか。他のビジネスに比べて不確定要素が多く、読めない部分が多い。
まず一つに、音楽が生活必需品で無い事がある。食べ物は絶対に買わねばならない。住居もそう。それらに対して、音楽は娯楽である。生活を豊かにしたり、元気付けたり、鼓舞したり、寄り添ったり、なだめたり、代弁したり。そういうものが音楽だ。必要な人は音楽を求めるけども、人生に於いて全くもって音楽が必要のない人も居る。
もう一つ、音楽の聴き方には一人当たりのブレが大きい。音楽を定期的に聴く人、ヒット曲だけ聴く人、自分から深い部分まで探りに行く人、与えられた音楽のみを聴く人。色々と分かれる。
これらの要素があり、非常に読みづらい。ほぼ毎回毎回が実験だ。メジャーレーベルですら実験の繰り返しで、しかも失敗だって多い。その裏にはさらに表にすら出ない失敗が積み重なっている。
ドロドリにも様々な挑戦、実験を鏤めた。
色々とあるうちのひとつとして、この「あるものねだり」の製作がある。
あるものねだりのアレンジ
あるものねだり / Draw Daydream During Dawn
楽曲を聴いてみると、およそ普通のロックとは違う点が多く見つかる。
僕的にはかなりチャレンジングな曲で、さすがにシングルの1曲目には持っていけなかった。言うなればアルバム曲、という感じ。
楽曲には、平行線よりも強く歌謡曲のエッセンスがある。
そこには昭和の時代に参考にされたジャズだったりブルージーなものだったりも含む。
平行線では「ベースとドラム(リズム隊)は今風にして古臭さを無くした」と言ったが、あるものねだりではベースとドラムも歌謡曲のようなフレージングにしている。そういう点も含めて解説していこうと思う。
使用楽器について
使用している楽器は多岐に渡り、オーケストラのような構成を意識している。
また、本曲でもギターは使用していない。
ストリングスセクションとして、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを4人、2人、2人。フレーズには派手さを出さず、ほぼ長音で曲のハーモニーを出している。
ホーンセクションはアルトとテナーのサックス。メリハリをつける役割をしている。最初はトロンボーンも入れていたのだけど、低域がゴチャッとしちゃうのと思ったよりも効果的じゃなかったので外した。
フルートも効果的に使用。セクションの折り返し地点とかね。
あと、リードセクションも2サビ後に作った。もうちょいフルート色を出したくなってしまって。
シロフォンとビブラフォンも要所要所に。いわゆる木琴と鉄琴ね。
シロフォンとビブラフォンで役割が被らないように、それぞれの領域で仕事が出来るようなフレージングに。
こういう楽器全般に関してそうなんだけど、その楽器の出来る範囲を把握しておく必要がある。それぞれに、同時に出せる音の数の制限、音の出せる高さの幅の制限、そして奏法の制限がある。そのキャパシティを越えるとリアリティが失われる。
そういった制限を踏まえ、さらにその楽器らしさのあるフレーズを取る必要がある。ギターのアルペジオやリフのフレーズをそのままピアノで再現すると違和感があったりするのはそういう事。それぞれに合ったフレーズがある。
他にもティンパニーやチューブラーベル、ウィンドチャイム、トライアングル等の細かなパーカッションも入れた。
ハープも効果的で、駆け上がりや下るフレーズを配置。
キーボードはオルガンとエレピが入っている。オルガンは楽曲全体に、エレピはTine系をイントロに。
オルガンはイントロやAメロ・サビはパーカッシブな演奏、Bメロ・ソロあたりでは長音で演奏してコード感を出している。
ウッドベースは歌謡曲らしさとジャズ界隈のいいとこ取りのような演奏に。
2番のBメロあたりからジャズ風味が出始め、ソロセクションでは完全にジャズのような4ビートフレーズとなる。
ドラムはサビ以外のビート感を無くした。8ビートや16ビートのようなものではなく、ただただ曲をプッシュするだけの役割に徹している。サビ以外ではほぼビートを決定づける意味合いでのスネアドラムは出てこない。
コードワークについて
コードは平行線に比べてずっと素直。
Aメロやイントロでは、
Bm―――Em9―F#7add9#-F#7add9♭-
を繰り返す。
これによって、トップノートは、
F#―――F#―A-G-
となる。
コードネームは複雑だけど、トップノートの響きを出すためのテンションコードである。
BメロはⅡmーⅤ―Ⅰ―Ⅳ―…と進む、いわゆる循環コード。度数が4度ずつ上昇していく進行で、ノスタルジックな雰囲気を出す時に使うと良い。
Em-A-D-GーC#m7-5ーF#ーBm-B7-
と続く。4度ずつ上げると5個目のコードがキー的に「〇m7-5」となる。その後のⅢは通例Ⅲmだが、Ⅲとすることが多い。
サビもシンプルで、歌謡曲らしい進行としている。
Bm―――Em7―――A―――D―――
C#m7-5-F#-Bm-Em-Fdim―――F#―――
サビ前半の4コードは堂々とした雰囲気が出せる進行だと思う。
その後はちょっと変化を出し、EmとF#の間のFdimが特徴的。本来はAになるところ…なのかな?Fの音が欲しかったのでこうなりました。理論に縛られると出てこないか、おおよそ複雑な話になると思う。
サビの後半では頭のBmをBにして変化を付けている。サビの前半がどっしりとした雰囲気だとすると、後半ではちょっと浮ついたようなものとなる。
ソロセクションでは前半はフルート、後半はビブラフォンのリードとなる。
こちらのコードはシンプルに聞こえるが、ちょっと特殊。
Bm―――G#m7-5―――Em7―――A6/E―F#7―
これはイントロ等で使っていたコードを変化させたもの。
Bmで2小節続けていた所の2小節目をG#m7-5へ。そして、後半部も若干変わっている。
ソロセクションであまりに特殊なコードを用いるとリードを取る側が苦労しちゃうのだけど、流れを崩さないようなハーモニーになっていると思う。
違和感なく聞かせるかどうかの判断は理論じゃなく、自分の耳で行っていきたい。
歌詞について
一通り歌詞を見てもらえれば、ある程度の意味は把握できるとは思う。
自分の立っている場所というのは見えにくい物で、自分よりも恵まれている、優れている人に対して妬み――ジェラシーを感じることもある。
もしかすると既に満ち足りている、もう欲しいものは手中にあるのかもしれない。
けども、欲が高まり、更に欲しがってしまう。上を見れば終わりが無い。
そしてその速度はどんどん加速してゆく。最初は銀も美しく見えたのに、金が手に入れば銀は霞んで見える。プラチナが手に入れば金には飽きてしまう。その繰り返し。
努力をすれば手は届く。いくつかは手が届いた。
しかし自分の力だけでは到底追い付けない場所にいる人も居る。
そうなってくると他の人や物にも頼って味方に付けなければならなくなる。
それが承認欲求だったり自己顕示欲に繋がる。喝采を求める。
例えそれがちょっと逸れたやり方だったり本筋からブレたりしていても、手段を選ばなくなっていくかもしれない。
欲しいもの、求めるもののために、自らどんどん道を狭めている事に気付けないかもしれない。
いや、実は気付いているけども、もう元のあの頃の自分には戻れないのかも。
その生きる道を、そのまま進むしかないのかもしれない。
尤も、その手に入れた物の価値がしっかりと測れないと、持っていてもただの石ころのようなものなのかもしれない。
そうなると、もう"ある"のに"ない"に等しい。
*1:Draw Daydream Duirng Dawnの略称