夜中1時。
コンビニに車を停め、車を降り、コンビニへと入る。
傍らの喫煙所に人影が3~4人程度。一人はしゃがんで、一人はなんかゆらゆら揺れて、もう一人は柵か何かに掛けている。
まぁ視界に入った程度なのでそんなにちゃんと見えてないけど。
治安悪いなぁ、と思いながらコンビニで必要な物を手に取り会計をし、車に戻る。
車のドアを閉め、改めて喫煙所あたりへと目をやる。
細い目、それを隠すかのような長い前髪、やせ型のまさに米津玄師の下位互換みたいな奴。パーカーのフードを深々と被った奴。などなど、3人がいた。
車を停めた場所から喫煙所までは少し距離があり、きっと向こうからこちらは見えていないのだろうけど、ドアも窓も閉めているのにたまに煩い笑い声がする。近隣から苦情が来そう。
コンビニから近い立地に住むというのは一見すると便利そうだけど、こういう面では苦労するのかもなと思うなどする。
けど、きっと彼らにとってはそんなことはどうでも良いのだろう。
でもそれで良い。僕も「そちら側」ではなくなってしまったが、自分に被害が無い上に知人でもない彼らに対してわざわざ水を差したりはしない。
†
かつては、僕も「そちら側」だったのだろう。
コンビニの外の喫煙所で、夜な夜なバンドマンが集まり、缶コーヒーを片手に持ち、本当に内容の無い話をしたり、たまに熱く夢を語ったり。
缶コーヒーとタバコってなんであんなに相性が良いのか。缶コーヒーって淹れた珈琲とはまったくの別物ってくらい味が違うのに、なぜかタバコと合わせると爆発的に旨い。
今ほどタバコに関して世間がうるさくなく、路上禁煙地区も今よりずっと少なかった時代。
夜中、ちょっと風が肌をひんやりとくすぐるような季節。ちょっと外に出て、タバコを吸いながらうろうろと歩いてみて、月や星をボーっと眺めてみたり。
コンビニまで歩いて缶チューハイを買い、飲みながらふらふらと歩いてみたり。
目的はちょっとした気分転換だったり、インスピレーションを得るためだったり。
他の人にどう思われようが、気にしなかった。
誰かに笑われることもどうでも良かった。
他に人影が見えたら歩きたばこはしない等のよく分からん独自マナーはあったけど、きっと周囲に迷惑もかけたことだろう。
日の当たらない影で過ごしていたが、その分日に当たった時に目立つ"痕跡"はきっと誰かが消してくれていたのだろう。
自分は日向で胸を張ってどうどうと歩けるような立場では無い事は承知していた。
だからこそ、深夜誰もいない通りの街灯が僕にとってのスポットライトだった。
誰にも見られず、誰からの束縛も受けず、好きなように寝静まった街を徘徊し、自分が自分に与える自由を謳歌した。
まるで、自分が世界の中心かのように。
†
もしかしたら、当時も同じように僕とすれ違い、車に乗り込んだ年長者が居たのかもしれない。
「最近の若いもんは…」と思われたのかもしれない。
いや、もしかしたら、「自分もお前たちみたいな時代があった、今だけしかできないこともあるだろう、好きに出来る時に好きにすると良い」と思われていたのかもしれない。
尤も、それは本人には届かないのだが。