今どき、ネットで何でも買う事が出来る。
服や日用品、食品は当たり前。定期的に届くようにも出来るし、押すだけで勝手に注文・支払いが完了するボタンなんてものも存在する。
車だってネットで買える時代だ。そのうち家も買えるだろう。
何でも揃うインターネットでは、おせち料理ですらネットで買えてしまう。
これ、「コロッケを手軽に買える」みたいな合理性があって、個人的にときめく。
"作ると面倒な物"は"買って食べる物"に
コロッケといえば、コンビニでも100円程度で買えてしまうほどのお手軽惣菜。
未だ尚存在し続ける町の総菜屋さんみたいなところでは50円とか60円とか。更に冷凍食品ともなればもっと安い事もある。
この事からコロッケは身近でありお手軽な惣菜に感じてしまいがちである。
しかし、実際にコロッケを作るとなると、その工程・手間・費やす時間に驚くことになる。
どこでも買えて、かつ安価なコロッケ。しかし自作してみるとそのコストパフォーマンスの悪さを思い知らされるのだ。まさに「買った方が早い」である。
ただし、もちろん自作のメリットはある。
まず原価で考えれば作った方がもちろんお得である。そうじゃなければさすがに商売も成り立たない。
そして作ること自体に楽しみを見出せるのであれば、自分で調理することそのものがメリットになりうるだろう。
自作だと面倒くさいコロッケ。買った方が早いコロッケ。
そしてそんな「買った方が早い料理」は他にも色々と存在する。その中でも最たるものが、おせちである。
おせちはいわゆるオードブルタイプの料理。
様々な料理を少量ずつ用意せねばならない。また、中にはおせちでしかお目にかかれないような食材もあるし、調理に関しても茹でたり煮たりと手間が掛かる料理が多い。
年末のスーパーではおせちの品目ごとに惣菜が入った袋が並ぶ。黒豆とか、栗きんとんとか。
現代では、それらを詰め直しておせちを完成させるところがほとんどだろう。
おせちの過去と未来
そもそも「おせち」ってなんだよ、って話から始める。もしかするとおせちそのものに触れていない人だって少なくないかもしれない。
既出の通り、おせちの作成は手間がかかるため、幼少期に親がおせちを面倒がって作っていなければおせちに触れる機会はグッと減るだろう。最近ではそんな家庭もきっと珍しくないはずだ。
おせちの歴史
おせちは神様への供物である。大昔に中国から伝わり、奈良時代には朝廷で「節会(せちえ)」という儀式として行われていた。
新年のような節目の供物は「御節供(おせちく)」と呼ばれた。当時の料理は現在のおせちとはまた違うが、普段の料理とは違う特別な物だったようだ。
なお、中国の五節句に倣った儀式だったため、もともとは文字通り年に5回の"節"があった。しかし新年のみが残ることとなった。
おせちは徐々に「飾るもの」と「食べるもの」に分かれていく。
神様への供物としての側面と、願掛けや縁起のいい食べ物を実際に食べる事でご利益を期待する側面が出来た。「御節供」からお供えを意味する"供"が抜けて「おせち」になっていったのも、きっとこの辺の話だ。
これが江戸時代のこと。江戸は語呂合わせやゲン担ぎが大好きである。この時に黒豆や田作りなんかもおせちに入ったと思われる。
もちろん江戸時代にはデパートなどというものは無いので、各家庭でおせちを作っていた。
おせちの中身は地方によって異なるが、基本的には日持ちがする料理だった。
正月は極力火の使用を控える風潮があったようで、年末に準備をして完成させておく。
近代になり、食料の保存技術も発達。
昭和時代に入るとデパートや百貨店でも買えるようになった。
この時、デパート等では見栄えの良い重箱を用いた事から、家庭でも重詰めが一般的になっていったとされる。
実際、重箱の利用自体は江戸時代から存在はしたが、各家庭でもおせちのイメージとして一般的になったのは戦後である。
重箱
重箱は組重を用いる。いわゆる複数の重箱を重ねたものである。
外側が黒色、内側が朱色なものが正式とされ、蓋は金や白で色を入れた絢爛なデザインの物もある。
組重は5段重が正式とされる。
が、時代とともに家族の人数が減った事もあり、徐々に略式化。現代では3段重でもかなりフォーマルな印象を受ける。
最近では2段重、1段重も珍しくなく、逆に大きめの1段に全て盛り込んだおせちも存在する。
おせちの料理
おせちの中には様々な料理がある。だいたいが「縁起が良い」とされる料理である。
数の子は卵が多いことから子孫繁栄、ニシンの卵ということでニシン⇒二親にも通ずるとされる。
黒豆は「マメに働けるように」という長寿・無病息災の思いを込めて。黒く日焼けするほど働けるようにという意味もあるらしい。
栗きんとんは金色の財宝を表し、金運を願うもの。栗は「搗(か)ち栗」と言い、搗ち⇒勝ちを表す。
たたきごぼうは主に関西の風習で、霊獣を表すものとされる。邪を払い運を開く。
鯛の焼き物を付ける地域もある。縁起の良さは言わずもがな。これは3日間手を付けず、供物としたりもする。出世魚であり旬でもあるブリも焼き物として良く用いられる。
田作りはカタクチイワシのこと。田の肥料にしたら豊作になったことから田を作る⇒田作りとなる。
他にも紅白のかまぼこや紅白のなます、伊達巻、海老、昆布巻き、くわい等を用いる。
何を以ておせちとするか
個人的にはおせちは縁起物を食べるものだと思っているが、昨今はイタリアンおせちや中華おせちも存在し、そのバリエーションには枚挙にいとまがない。
縁起物が入っていなかったり和食じゃないからといっても、販売者がおせちお言えばそれはおせちである。おせちには定義が無い。
おせちと銘打てばオードブルが売れるからという面もあるが、そんなおせちでも親族が集まる場では重要があるだろう。
子供にとっておせちは食べられるものが少ないし、ハンバーグとかハムとかが入っていた方が盛り上がるし喜ぶ。
親族で囲んで食べるオードブルもおせちであるのと同じく、1人で1段のシンプルな重箱でいただくのもおせちである。人数は関係ない。
おせちと思えばおせち、おせちと言えばおせち。それで良いんだと思う。
おせちとネット
2000年後半あたりからはネットが発達、いよいよネットでおせちがかえる時代に突入した。なんて便利な。
しかし2009年、ネットで販売したおせちで悲劇が起こる。
購入期間を絞り購入する人数が多ければ多いほどお得になるというフラッシュマーケティングの手法を用いた共同クーポン購入サービス「グルーポン」で取り扱っていた某飲食店のおせちが話題になった。
その飲食店はグルーポン上で21,000円のおせちを半額の10,500円で販売。豪華な写真の効果もあって、あっという間に100食分が売れた。
その売れ行きの良さに気を良くし、最終的に500食分を売ったとされる。
さて、おせちというのは作成に手間が掛かる。例えノウハウのある専門業者であっても、500食も作るのならば50人がかりでも2~3日を要する。
先ほどの飲食店は5人しかスタッフがおらず、後はお察し。ノウハウ無し、発注ミス、機材の故障――とボロボロだったようだ。
詳しくは「スカスカおせち」等で検索してもらえれば良い。
これが2009年、つまり2010年の新年の話。もう10年以上も経ったが、未だにネットでおせちを買おうとするとこのサジェストが出るくらいのインパクトを残している。
ネットで購入するおせち――便利過ぎるシステムだが、躊躇する消費者が多く、イメージ回復までにはかなりの時間を要した。
やっと不安要素が無くなってきたのは本当にここ数年の話だと思う。おせちを取り扱う飲食店の涙ぐましい努力が伺える。
おせちの未来
というわけで、何かスカスカな事件が起こらない限りますますおせちはネット購入が主体になってくると思う。
スーパーで買って盛り付ける方が安いので、ファミリー層にはそちらが節約にもなって良いと思うけども。
しかし最近では少人数での年越しも増えているし、今年は新型コロナウイルスなんかもあり帰省しない人もいるだろう。
そうなるとますますこういった1人用とか2人用の小回りの利くネットのおせちはフィットする。
ネットのおせちの良い所は、様々なバリエーションの中からポチっと1クリックすれば年末に完成品が届くところである。最強の時間節約とも言えるかもしれない。
ネットのおせちは信用が無ければ売れない。その点、例えば近年はコンビニでもおせちが注文できるが、あれはコンビニというブランド力に信用が出来るという部分も心理的には大きいと思われる。どこの露店か分からないところでコンビニで注文できるものと同じおせちを注文できますよ、って言われても買えないだろうからね。
ネットでおせちを買ってみる…その前に
僕も今年はネットでおせちを買ってみようと思う。
しかしおせちは決して安い買い物ではない。いくら僕一人用とはいえ、安くても5000円程度~1万円程度の買い物となる。
どこの業者かも分からないような所から購入してスカスカだったら…あの事件が脳をよぎる。
ネットの業者は様々で、大きく分けると、「普段から外食事業をやっていておせちを展開するような会社」と「おせちに特化した専門業者」がある。
前者はレストラン等での評価からだいたいのおせちのクオリティが伺い知れる。ただし、おせち(テイクアウト)に関しては素人な場合もあり、梱包の曖昧さや保存方法等の面で不安がある場合もある。
後者はおせちのノウハウを熟知していて、むしろお弁当業者に近い。その分、実態・実績が無かったり内情がさっぱりブラックボックスだったりもする。UberEatsで配送する際のレストランが複数の名前で運営するゴーストレストランだった、というニュースも最近は流れる。ネットの情報はどうとでも出来てしまうから、その実態は分からない。
それぞれにメリット、デメリットはある。このデメリットの部分の不安をいかに払拭できるかがカギになりそうだ。
後者の「おせち特化型」はかなり多い。サイトを見ると一流料亭みたいな板前や女将が写ったりしていても、それは写真素材かもしれない。店舗所在地は工場かもしれないし。そういうところは結構多い。
だからといって不安という事は無く、むしろ工場のように設備の整ったところで一環で生産してくれた方が衛生的にも優れている。それよりも、実態・実績があるかどうか等が重要である。
おせちを見極める
現在では数多くのおせち業者がひしめいており、ネットショップでは8月末あたりから商戦が始まる。早い。
これでだいたいの人気度を計るわけだが、最近は早期割引が充実していたり11月~12月くらいまでキャンセルが出来たりと良心的な設計。年末年始の予定が定まっていなくても、とりあえず注文しておくことも可能だ。
僕もネットショップの中で20か所くらいを比較した。中にはやはりちょっと怪しい所もあったが、さすがにスカスカなおせちが届く事は無さそうだ。
■楽天市場|おせち特集2022
■イオン|2022年人気のおせち特集
■ぐるすぐり(ぐるなび)|2022年 人気の厳選おせち!
■Oisix|2022年のおせち料理特集
その中でも良いと思ったのは「博多 久松」。こちらは料亭やレストランではなく、いわゆる食品製造業者。つまり、先ほどの例で行けば後者の「おせちに特化した専門業者」に当たる。
最終的に良いと思えたショップは数ヶ所あったが、決め手は「おためしおせち」が販売されていたことだ。
おせちのお試しをしてみる
実際のおせちの同じ食材が詰め込まれた小さめのおせちをワンコインで注文でき、判断材料に使える――古典的でありながらも画期的な手法だ。
現物の質を判断するには現物が一番だ。結婚式のコース料理の味見、物件の内覧、企業のインターンシップ、車の試乗…試してみなければ分からない部分も多いし、試すのが確実である。
この博多久松の"おためしおせち"は500円で購入できるが、イメージ写真で見る限り500円で良いのか不安になるほど。
最近はコンビニのお弁当も500円を切る事は少なくなっている。これは赤字では…?
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おそらく"おためしおせち"だけ試されて、実際のおせちが買われなければ赤字になってしまうと思う。
それでもこうしてサンプルを撒く事が出来るのは、自信の表れとも考えられる。
"おためしおせち"を食べてみる
おせちの通販のハードルの高さは実は他にもある。
冷凍で届くので解凍をしなければならない。年末に届いて正しく解凍をして元旦を迎えられるかどうか。
届く状態も確認したい。正月にみんなで囲んでフタを開けたら…がっかり、なんてことが無いようにしたい。
"おためしおせち"はそういう点でのリハーサルも出来るので、精神的な負担も楽になりそうだ。
届いたおせちは12時間ほどかけて冷蔵庫で解凍、その後常温に馴染ませてからいただく。
箱は紙製だが重厚で、チープ感は感じられない。
中身は16品。充分な品数だ。本当に500円でいいのか。実はマズいとか…?
ちょっと不安になりながらも食べてみる。
黒豆、伊達巻、海老等のトラディショナルなおせち料理は、分かりやすいシンプルな味付け。
凝った技法が散りばめられているわけではないが、充分においしい。
創作料理もあり、楽しめる。
「鶏つくね照焼」は良いホロホロ感。「やわらか干しトマト」もオリジナリティに溢れていて良い箸休めに。まるでレーズンのような食感で、トマトの甘味が存分に楽しめる。
味付けやレパートリーからしても年齢層のターゲットは広めに感じた。今どきらしいおせち、という感じ。
総じて大満足のクオリティだった。
想像のハードルを大きく超えてきたので驚いている。
まとめ
今どきのおせちの進化は凄まじいし、ネットならではのデメリットを理解した販売方法を取り入れる企業も増えてきた。
10年前の事件が抑止力となり、最近ではよほど酷い無計画なおせち業者はお目にかかる事が無くなったと思う。
僕はというと、"おためしおせち"を踏まえて博多久松でおせちを購入したので、年始はおせちとともにのんびりと過ごそうと思っている。
色々な品数、ランク、対象人数のおせちが取り揃えられていたので、僕は数日かけて食べる事を想定して2~3人前にしてみた。
年末年始の楽しみが、一つ増えた。
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