2021年4月某日。
今年の桜は短かった。
桜の時期の短さもまた魅力のひとつだろう。絵として綺麗であり、身近で、そして期間限定。
この刹那的な美しさに、日本人は千年以上心を奪われてきた。
そんな桜もすっかり散り、日中は春らしい陽気を見せる事も多くなってきた新緑の候。
しかし夜は寒く10℃を切る日もある。まだまだ服装に悩まされる季節は続きそうだ。
ひとつ前の旅
"徳重"界隈を歩く
概要
徳重(とくしげ)。
名古屋市緑区の東の地。もう少し東へ行けば豊明市はすぐそこ。
地下鉄桜通線の終点でもある。元々は4駅手前の野並が終点だったが、10年前に路線が延長された。
緑区は区内南部を東西へと貫く名鉄の路線沿いに発展していった区である。
しかし、北部に地下鉄が通った事により、交通の便が改善。以降、地下鉄の駅沿いでも新たな住宅地やショッピングモール等が建設されていく。つまり、緑区北部は比較的新しい街である。
路線延長された桜通線の終点である徳重は、そんな新規開発の恩恵を受けつつも、古き良き街の赴きも随所に残している。
新しい建物がどんどん建ちゆく中、古くから生活の中にあった神社や川、池などが溶け込む。そんな街である。
足取り
①大池
平針の運転免許試験場から道沿いに南下していくと緑区へと入る。
神ノ倉を通り過ぎ、白土へと抜けると、大池と呼ばれる池が現れる。
大池手前には公園――というよりも広場が広がる。
広場は周辺よりも一段低くなっている。近くにトンボ(地ならし用のレーキ)が置いてあったので、定期的にスポーツか何かで活用していそうだ。
その奥にある池が大池。かつては赤松池という名前だった。
この大池は扇川の源流となっている。川の始まりの場所である。
この広場の奥の方は、細かな砂や泥により構成される地質になっていた。
もしかするとこの大池はもう少し水位が高かったかもしれない。今でこそ緑が生い茂っているが、かつてはこの写真の緑がある当たりは池の底だったかもしれない。
このまま扇川沿いに川を下っていくことにする。
②扇川
大池から流れ出る水流は扇川となる。
大通りを一本内側に入ったところを流れる川は、かつては生活にもっと密着した川だったと考える。文明や街はだいたい川沿いに発展するものだ。
水流は少なく、くるぶしまでも無さそうだ。
しかし苔や植物の生え方からするに、かつてはもっと水量があったように思える。もしくは今が雨量が少ない時期なのか、もしくは昔の豪雨の爪痕が残っているのか。
川の両端は緑が多く、犬の散歩やジョギングをする人たちを見掛けた。
表通りから一本入っただけなのに、非常に静かで長閑な自然が広がっていて心地が良い。
そんな川にも少しずつ左右から支流が合流してくる。少しずつ水量も増しているように感じる。この扇川もやがて海へと還る。
ちなみに最終的には南区内で天白川と合流し、天白川へと名を変え湾へと向かうことになる。
随所に花が植えてあったりもする。草木も剪定、整理の痕跡が見える。
きっと定期的に整備する方がいるのだろう。
急に川底に細かな砂が現れる。
先程まで完全にコンクリートで覆われていたが、この辺は粘土質、もしくは細かな砂のような地質となっている。
水流が弱いため僅かずつではあるが、これらの泥たちも徐々に下流へと進むのだろう。
川底がコンクリートでは無くなったあたりから、生物を見掛ける様にもなってきた。
こちらはおそらく川魚のボラ。鳥や虫も先ほどよりも増えてきた。
川底に石が増えてきた。
水量も徐々に増え、川らしくなってきた。
③扇川公園
このまま進むと扇川公園という公園がある。
花もあり、緑もあり、そして遊具もある。特別何か大がかりな遊具があったり特筆すべき名物があるわけでもない、普通の公園である。公園はそれくらいがちょうど良い。
この辺の人たちはきっとよく利用するのだろう。
公園の奥の方は中央に向かって窪んだ特徴的な形をしている。
ここは普段は自由に使う事も出来るが、大雨の時に川の水をここへ引き入れる事で川の氾濫を防ぐ役割があるようだ。
川の傍にこういった防災機能を備えているのは地域としても頼もしい。
万が一への備えはあるに越したことはない。
④焼肉 おしわら
扇川公園を後にし、川から離れて表通りへ進む。
この辺は様々なチェーン店が立ち並んでいる。ファミリー層の多い街なので、子供向けの設備やメニューのアピールをしているお店が多い。
そんな中、また少し違った趣きで佇むのが「焼肉 おしわら」。
ランチタイムの営業もしていて、お値打ちに焼肉を楽しむ事が出来る。
今回頼んだのは、「赤身ランチ(2,500円)」。
お肉の盛り合わせとごはん、サラダ、ごぼうキムチ、ワカメスープのセットだ。
少々お高めではあるが、満足度が高ければコスパは良いと言えるだろう。ガッツリ食べたい人には不向きかもしれない。
タンがあるのがありがたい。僕はそこまで必須とは思わないが、やはり「タンも食べたい」って思う人は多いと思っている。
お肉は各種3枚ずつ。左はタン。軽く塩胡椒で味が付いている。オススメは追い岩塩。
右側手前にはカルビ。ボンレスショートリブだろうか。ジュっとした旨味を感じる。
その奥には赤身肉。肩ロースあたりだと思う。特徴はチャックフラップテールあたりに似ている気がする。焼き過ぎると固くなるので適度に。
奥にはヒレ肉がある。やや小ぶりなカットだが、そのポテンシャルは十分。「赤身肉を食べてる感」が溢れる。
なお、ごぼうキムチがおいしい。お土産にしようか迷ったくらい。
今はテイクアウトにも力を入れているようで、各種お弁当はもちろんのこと通常メニューのテイクアウトも可能らしい。
⑤熊野社
焼肉ランチを終え、そのまま表通りを川を遡上する方向へ進む。つまりUターンした形になる。
しばらく歩くと、いきなり熊野社の碑が現れる。
鳥居も見える。奥は鬱蒼と緑が生い茂り、その様子は伺い知れない。
一礼し、入る事にする。
この辺の地名は神ノ倉と言い、この熊野社はその中枢とも言える。
この社のある山が神の鎮まる座であることに由来する。
もっと歴史を感じる佇まいかと思いきや、かなり綺麗に整備されている印象を受ける。それだけ人の利用や往来も多いのだろう。
この日は本殿の工事をしていた。
本殿へと続く道は舗装もされ、通りやすくはなっている。
木々が生い茂り、自然を感じる事が出来る。
木漏れ日が柔らかく、すぐ外は結構交通量のある道路だったはずなのに空気もシンとしている。
なお、表通りから本殿までは長い石段となっている。
奥の方にかなり急な石段があるのが見えるだろうか。100段とまではいかないが、結構しっかりと上っていく。
前述の通り、本殿が改修中だったのが少し心残りではある。
本殿の裏から毘沙門天像へ通じる道があるとの話だったが、こちらは未舗装の裏道。草木が無い部分が道のように奥へと続いて、かろうじて動物が通った様な痕跡を残すのみ。
そもそも通って良いのかの判断が出来かねたため、引き返して階段を下る。
⑥熊野社――毘沙門天像
熊野社は南側の道路沿いに入口があり、南北に長い敷地を有する。
毘沙門天像があるのは北部にあたる。他にも毘沙門天像のあるエリアへと入る事の出来る通り道があるとの情報を得て、そちらから伺う事に。
敷地沿いにぐるりと左回り。敷地南部から出発し、東部を北へ向かって歩いていく。
新しい家が多く立ち並ぶ。それぞれの家に個性はあるが、例えば一本の通りに立つ民家は一定の統一感を持っていたりもして、景観を成している。
それぞれが飛び抜ける事無く、いくつもの家が並ぶ事でその街らしさを形成しているようだ。
こういう開発は、きっと土地を一括で借り上げて不動産屋が管理しているのだろう。
そうこう考えているうちに敷地北東部へと到着する。
ふと横を見ると、民家と民家の間に石碑と石段が。あやうく見逃すところだった。
上っていくと、民家への勝手口に通じていそうなほどのパーソナル感のある道だった。
後から敷地を削って整備された道なのかもしれない。
こちらもしっかりと石段が続く。100段以上あるようだ。
石段を上りきると、多少拓けた場所に出る。
特に舗装がされているわけでもない、丘の上という感じの場所だ。
そこに毘沙門天像もあった。
毘沙門天は仏教に於ける神の一尊にあたる。
四天王の一尊の多聞天であるとともに、独尊像として安置されている場合も多い。
庶民の信仰対象として像が作られる事も多く、江戸時代あたりからは七福神の一尊とも解釈され、勝負事に利益があるとされる。
⑦神沢池
来た道を戻り、熊野社の敷地をさらにぐるりと回り込んで西側へ。
そのまま敷地から離れるように西へと進み続けると、また街の喧騒から離れていく筋道へと入っていく。
そのまま進んだところには神沢池がある。
池の手前は緑のある広場となっている。
神沢という地名は「神ノ倉の近くの沢だから」といった理由だと考えられる。
住宅が立ち並ぶ前はもっと霊験のある地だったのかもしれない。今が全く無いというわけではないけども、かなり感じにくくはある。
ここから神沢川が始まる。
神沢川は短い川だ。のちに扇川となる。
神沢の地区は開発が進んでいる。ここら辺一体もきっとほとんどが住宅地へと変わるだろう。
自然が多く、様々な動物も居るので、この池と川は守られてほしい。
神沢池に沿って歩く事が出来る。緑は多く、風も心地良い。
四季によって見せる顔も変わっていきそうだ。
いわゆる"神沢池"と呼ばれる部分は、川が蛇行した三日月型の部分である。
川なのか池なのか…ここは穏やかな水量のため、ほぼ池と見做して良いだろう。
サギも居た。緑色が特徴的なので、おそらくダイサギ。
亀も見かけた。
亀たちは甲羅を干したり数匹で一緒に泳いだりと楽しそうだった。
いや、もしかしたら彼らには彼らなりの苦悩があるのかもしれない。
⑧神沢川
神沢池の出口には橋が架かり、そこからは整備された川となる。
川と言うよりも用水路に近いかもしれない。
神沢川は住宅と林の間を貫き、徳重駅方面へと向かう。
少し歩くと、もう徳重駅周辺の大通りが見えてくる。
⑨要池
神沢川が扇川と出会う手前には再び池がある。
要池と呼ばれるこの池は、その名の通り神沢川の要となっていた。
現在はしっかりと整備がされているが、かつては水車小屋もあったらしい。
この橋を東へ渡れば、もうそこは徳重駅である。
奥左には徳重駅ターミナルとショッピングモール「ヒルズウォーク」。
生活拠点、生活基盤が着々と出来上がっていく様は、まるで都市開発シミュレーションゲームさながら。
むすび
徳重は急速に開発が進んで利便性が向上している街である。
土地的な話ならば今が買い時である。これから確実にもっと住み良い街へ変わっていくことだろう。
願わくば、自然を残し良い所を残しつつ、共存をしていってほしい。
開発されて便利になる街に思いを馳せつつ、旅の結びとする。