ねこらぼ( 'ω')

名古屋でこそこそと活動っぽいことをしている橋本ねこのブログ( 'ω')

ライブハウスの店長が偉そうな件


「まぁ、ね?もう少し音楽性を考えるのも大事だし、あとはもうちょい練習も頑張った方が良いんじゃない?」

若いバンドマンにそうアドバイスするのはライブハウスの店長。

アマチュアバンドのライブ後によく見る光景だ。

 

ライブハウスとお金と関係性

アマチュアバンドマンが出られるようなライブハウスの運営というのは複雑で、基本的にはチケットの収入だけではどうにもならない。

 

具体例で考えてみる。

皆さまに買っていただくチケット。1枚2,000円としよう。5つくらいのバンドが出て、5人ずつのお客さんを集めたとする。

アマチュアバンドやインディーズバンドをライブハウスに見に行かない人からすればびっくりかもしれないが、1000人とか、いやそもそも100人とか安定してお客さんを毎回入れられるバンドなんてほんの一握りである。マジで居ない。メジャーデビューしてても正直怪しい。グッズや音源の売上を足して、何とかどうにかするのである。

 

話を戻して、先ほどの例だと全体では50,000円の売上となる。

ライブハウスのスタッフは、音響、照明、受付(窓口)、バーカウンター、ソデ(機材移動の手伝いや本番中のトラブル対応)、事務(店長とか)などの役割があり、5~6人がかりでなんとか50,000円の売上を作り出していることになる。

ドリンク代などもあるため更に500円×25人分くらいの追加収入はあるが、家賃や水道光熱費を考えれば余裕で吹っ飛ぶ。

あとはスタッフに薄給を払ったら何も残らない。マジで火の車。

 

そのため、ライブハウスでは照明とバーカウンターを兼任したり、受付を店長がやっていたりと複数のポジションをこなすことで人を浮かして節約をする。

まぁバーカウンターは演奏中に人が来ることは無いので、照明さんが担当できる。音響と照明を一人でこなすという牛丼屋もびっくりのワンオペをこなす方を見たこともある。

 

この程度の額だと基本的にバンドマンはギャラなど無い。

バンドマンはライブハウスからお金を貰っているイメージかもしれないが、実は違う。むしろその逆とすら言える。

 

バンドマンは20枚程度なりの「ノルマ」を課せられており、その人数に満たなくてもその額を用意しなければならない。5人しか来なければ15人分は自腹である。

駆け出しのバンドマンは、むしろライブハウスにお金を払ってライブをしている状況になる。こうなるとライブハウスにとってどっちがお客さんか分かんなくなってくる。

 

でも、別にこのシステムが悪いとは思わない。

ライブハウスに出演するにあたって、別に演奏能力や楽曲の審査があるところなんてほとんど無いので、比較的誰でも出れる。つまりブラックボックス。

なかなかレアではあるが、マジでヒドい出し物をする方が一定数は居る。ピン芸人みたいなやつとか控えめに言ってもクソ下手な演奏をする人とか。でもこれらはまだマシ。酷いと、脱ぎ出すとかお客さんにキレ散らかすとか、人間的にどうなのかと思える人も見た事はある。

もし万が一そういった事故みたいなライブとなったときでも、このノルマ制を敷いておけば、ライブハウスはある程度守られるのだ。まぁ目撃してしまったお客さんは貰い事故で恐縮なんだけど、このシステムはライブハウスにとっての安全装置ともなる。

 

20枚のノルマが出演する5バンドに敷いてあり、チケットが1枚2,000円ならば、例えお客さんが一人も来なかろうと、ライブハウスは一旦200,000円は収益が確定する。

これなら人件費を払っても何とか運営していけそうだ。バンドの財布は犠牲になるが、嫌ならそこでライブをしないか、お客さんを多く呼んでくれ、となる。

 

店長の偉そうな話

でも、結局のところノルマを越えてお客さんが増えた方がライブハウスもバンドも儲かるので、基本的にはライブハウスとバンドは向いている方向は同じである。

というわけで、今回はノルマ制に関しておかしいだの何だのと言う記事ではない。先ほども書いた通り、僕はノルマ制は別に悪いと思っていない。

 

しかし、「じゃあ集客を頑張るのは誰なのか?」「バンド任せでライブハウスは何も土プロモーションをせず、お金だけ貰っていくのはどうなのか?」等々、お金が絡んでしまったせいで新たな問題も増えた。

互いに互いのフィールドでやるべきことは大量にあるので、まずはそこを理解しあうことが出来るかが大事だと思っている。

 

 

さて、ライブ後、バンドは事務所でお金のやり取りをする。ノルマを越えればライブハウスから支払いがあり、ノルマに満たなければバンドが不足分を払う。

この精算を担当するのは主に店長だが、この時に無言で淡々とお金のやりとりをするわけにもいかないので「最近どう?」みたいなトークをする。

この流れで冒頭のようなセリフが出てくるのだ。

 

もちろんライブハウスの店長は良かれと思って声をかける。

「もっとこうしたらどうだ」

「曲はもっとキャッチ—なのが良い」

「お客さんのいるバンドを見て研究した方が良い」

「もっと練習時間を増やしたら」

等々、色々な話になる。

人によって、関係性やキャリア、年齢によっても違うが、だいたい店長からはこういったありがたいアドバイスが聞けることが多い。

それは真っ新で何も知見が無い者にとっては非常に有益だが、一部界隈からは「何を偉そうに」と大きく煙たがられるものとなる。

 

確かにライブハウスの店長って別に元メジャーのプロとか大手のマネジメント経験者とかはそう居なくて。でも「自分もバンドやってましたー」って人がほとんど。

だから一応あなたたち(バンドマン)の気持ちは分かる、という立場。キャリアも経験もある程度はあるので、中には有益な情報もある。

でもそんな大きな実績があったりする人はそう居ないから、「実績の無い人が何を偉そうに」と感じるというのはまぁ分からなくもない。

 

ここで大事なのは全部を受け入れる姿勢でも斜に構えるメンタルでもなく、取捨選択をしながら自分の軸は持っておくこと。

どういうことかと言うと、確かに店長のアドバイスは大事なんだけど、正しいかどうかは分からない。こればっかりは蓋を開けないと分からない。だから、自分で「それは確かにそうだ」と思えることと「いやぁ、それはどうかねぇ」って思うことは分けておく必要がある。

アドバイスを取り入れようが取り入れまいが、その先の結果に関してライブハウスの店長は保証してくれない。「あのときのアドバイスのせいで失敗した?ごめんね、じゃあうちでタダでライブしていいよ」とはならない。

だから、最終決定と判断は自分でしなきゃいけない

 

アドバイスを貰った上で自分で考えて「それはおかしくね?」と思ったら、何故そう思ったのかを聞けばいい。そしたらきっと答えてくれるはず。

何となく勘でそう思ったのかもしれないし、論理があるのかもしれない。しかしこの勘も意外とバカに出来ないから不思議ではあるが。

そうやって話し合って、互いに意見をぶつけ合うことで新しい"何か"が生まれるんだと思う。

 

まぁ個人的にはそもそもそういったアドバイスを「偉そう」って思っちゃう時点でちょっと溝があるなと感じる。まだ関係性が構築出来ていないか、相容れないか、どちらか。

聞いた上でどうするか決めればいいじゃない。その人がその人の人生の中で感じた物や歴史を喋ってくれるというのは貴重で、それを活かさない手は無い。参考にする、取り入れる、反面教師にする、と色々と使える。

 

今のライブハウスとバンドと

ひとつ問題視していることがあって。

ライブハウスの店長も現状のしがらみや軋轢は理解しているから、そうやってバンド側に煙たがられたくない人も多くいる。

精算するときもそういったバンドへのアドバイスはせず、次の公演予定を決めたりするだけの人も多い。

でも、それってライブハウスとバンドが本来同じ方向を向いてお客さんを増やそうとしていたのとちょっと違う。ライブハウスは出演してくれればどのバンドでも良いのか?って思えてしまう。

 

昔はバンドに対して本気で熱くおせっかいなまでに面倒を見るライブハウスが多かった。それはそれはもう鬱陶しいと感じるくらいに。

それで潰れていくバンドはそれまでだし、合わなければバンドも他のライブハウスに行くし。でも、おかげでバンドも成長してライブハウスとの結束も強くなって、という感じだった。

 

今はライブハウスとバンドの結束が薄くなってしまったように思える。

ライブハウスはバンドに本気で向き合ってくれない。バンドもライブハウスにがっつかない。

バンドにとってもライブハウスが増えすぎて選択肢がたくさんあるし、ライブハウスにとってもバンドが多過ぎるし、色々問題点はある。

 

ライブハウスのこれから

ライブハウスとバンドの互いの理解が深まらないと、溝は深くなる一方で。

今はよく言えばビジネスパートナーみたいな体裁だけど、実際はそうじゃない。ビジネスをしてないし、パートナーになっていない。互いに螺旋階段を下っているだけ。その先はもう見えない。

別に仲良くなるのが良いとか飲みに行くのが良いとかじゃないんだけど、なんかこう互いに線を引いてしまって歩み寄れていないような感じはある。

 

ましてやこの数年はライブハウスもバンドも大きなピンチを経験して、僕個人的には全国のライブハウスが1/3くらいになっちゃうんじゃないかと思っていたけど、それよりもずっと良い形でせっかく厳しい冬の時期を乗り越えたわけじゃない?

それだけのパワーがあるのだから、何とか強く生き延びてほしいなと思うのね。

 

個人的にはライブハウスの店長はもっとガッツリとバンドに関わってほしい。

もしライブハウスの店長として「このライブハウスには合わないな」と思うなら、次のライブ予定なんか聞かずに身を引いて欲しい。逆に「これは…!」と感じたならば、おせっかいなくらい関わってくれるとバンド側もより頑張れるかなと思う。

どうでしょう?バンド側からもライブハウス側からも意見が聞いてみたい。