ストロング缶というものが世に出てから結構な歳月が経った。
いわゆるチューハイの中でハイアルコールなものを指し、手軽にコンビニで買える上に一発でべろべろになれるのでコスパも良い。
というわけで若者を中心に大ヒット。パーティードリンクとして重宝されている。最近の渋谷のハロウィンでは欠かせないドリンクとなっていることで有名だ。
そもそも"缶チューハイ"とは
そもそもの話、「缶チューハイとは何なのか」と言われて明確に説明できる人はそこまで多くない。
缶チューハイとは缶のチューのハイである。なんのこっちゃ。
缶はそのまま、缶に入っているから缶。
チューとは漢字で書けば"酎"、つまり焼酎のこと。
ハイはハイボールのハイだ。
ハイボールとは、ウイスキーのソーダ割り*1を指す。
ハイボール(High-ball)自体は文字通り「ボールが高い所にある」状態を示すが、そのエピソードには諸説ある。そして、それぞれのエピソードで共通して出てくる飲みものがウイスキーのソーダ割りなのである。そこから「ハイボール=ウイスキーのソーダ割り」となった。
このハイボールを焼酎でやってみよう、となり「焼酎ハイボール」は生まれた。これが略されて「酎ハイ」となった。
缶チューハイの歴史とストロングの出現
前述のハイボール、つまりウイスキーのソーダ割りが日本で広まったのが1955年。戦後から人々が復興の兆しを見出した頃。そろそろ高度経済成長期に差し掛かろうか、というあたりだ。
テレビではサザエさん、CMには太田胃散や不二家のミルキーも流れていた時代だ。
元々、戦後あたりの飲み屋は焼酎に味を加えて飲む手法が流行っていた。そこに現れたのがハイボールである。なるべくしてなったとも言える組み合わせ。こうして焼酎ハイボールは生まれ、瞬く間に流行した。
さて、そこから歳月が流れ、缶チューハイが出現したのは1980年代頃だ。宝酒造が缶チューハイを手掛け、今まで居酒屋やバーでしか飲めなかった焼酎ハイボールが手軽に缶として買えるようになった。
なお、この頃からビールとウイスキーの消費が減っていく。これは増税の影響によるもので、今も昔もお酒の歴史には増税の問題が付いてまわる。第三のビール(発泡酒)も税金対策から始まったしね。
昔は「ビールやウイスキーを飲む」のがステータスのひとつで、特にウイスキーなんかは極端に言えば「タワーマンションに住む」みたいな人生の目標にもなり得るものだった。しかし、その後そういった思想は薄れだす。最近の若者に"外車の所有"があまり響かないのと同じで、トレンドや嗜好は時代と共に変わっていくもの。
その後、縮小していくビールやウイスキー業界を尻目に缶チューハイはどんどん発展してゆく。
それまではレモンやグレープフルーツ等の柑橘系フレーバーのみだった缶チューハイ業界に、ワインで有名なメルシャンが甘めのカクテルのような味の缶チューハイを出したり。同様に各社様々なフレーバーを登場させ、若年層にもヒット。
その後、ビールメーカーがどんどん缶チューハイ業界へと参入。2001年頃に出たキリンの氷結は現在まで続く大ヒットを収めている。
資金力が元々あったビールメーカーの参入により、チューハイ業界は一気に加速。
なお、ビールメーカーに焼酎の製造免許が無かったりした兼ね合いによって、ベースとなるお酒に焼酎を用いていなかったりする。それこそ氷結はベースのお酒がウォッカだ。
ウォッカ等の蒸留酒は焼酎よりも素材のクセが少ないため、扱いやすい。これがチューハイの雑味を無くす長所ともなり、今では進んでウォッカを取り入れるメーカーも多い。
その後も手軽さとレパートリーを武器に、チューハイ業界は円熟していく。
そして、2006年頃に出たのがストロング系である。
何故ストロング系チューハイは"9%"なのか
缶チューハイはだいたいアルコール度数は数パーセント。弱いものだと3%くらいで、平均値は5~6%あたりだと思う。
ストロング系のカテゴリーは当初7%から始まった。今でも7%以上のものが"ストロング"として扱われる傾向がある。
ストロング系は徐々に度数が上がり、現在の最高値は9%だ。
ひとつくらい10%があっても良いじゃないか、とも思うものだけど、実はここに壁がある。お待たせ、お酒の天敵の酒税だよ。
さて、酒税法第23条に基づき、缶チューハイが該当するのは発泡性酒類の中の「(3)その他の発泡性酒類」である。
これは表記上「リキュール(発泡性)①」「スピリッツ(発泡性)①」なんて書かれていて、第三のビールや梅酒のソーダ割りなんかもこちらに該当する。
このカテゴリーは他のお酒の分類に比べ、税金がかなり安い。だからコンビニでもジュースみたいな値段でお酒が買えるのである。これ、海外ではありえない事だからな。
そしてこのカテゴリーに属するためには条件がある。
お察しの通り、「アルコール分10度未満で発泡性を有する」である。
これにより、上限は9%となる。もちろん、区分から外れればもっと度数の高いお酒を出す事が出来る。今は見ないけど、どこかのメーカーが12%の缶チューハイを出していたような…。
しかし税率は思いのほか大きく異なる。
「その他の発泡性酒類」が度数10度を超えると、「発泡酒」のカテゴリーに入る。
それぞれの1klあたりの税率は、前者が80,000円/kl、後者が220,000円/klだ。
キロリットルあたりの税金だとさっぱり掴めないので缶(350ml)あたりに直すと、前者が28円、後者が77円である。一缶あたりの価格を想定すると、この税金比率の違いは大きく響くことが分かる。
なので、各メーカー9%を上回る缶チューハイを出さないのだ。
キリンの出した「ストロング」
ストロング市場は一定の層に人気のあるカテゴリーだ。
個人的には全くオススメしない。まず味がマズい。ケミカルな原材料も多く、体に良くない。
さらに言うなれば、ベースとなるお酒のクオリティが低い。味的な意味でも原料的な意味でも全く信頼が置けない。
そんなストロングだが、別に飲む人の事を否定したいわけじゃない。どのみちアルコールなんて人体には毒だ。その毒を摂取しないとやってらんないときだってある。分かる、分かるよ。うんうん、話なら聞くよ。
ストロング市場は今はサントリーの独り勝ちである。サントリーの「ストロングゼロ」が強い。まさにストロング。
アサヒは「もぎたてSTRONG」、キリンは「氷結 STRONG」で追随するが、サントリーには及んでいない。
そのキリンが満を持して、「麒麟特製ストロング」なるラインナップを出した。しかもいきなり5種類の味。
これは僕的にはキリンの挑戦状であり、覚悟だと受け取った。
買ってみる
ラインナップは5種類。レモンサワー、ドライサワー、コーラサワー、ホワイトサワー、グレープサワーだ。
必要最小限かつ欲しい味は抑えている感。まどろっこしいフルーティーなサワーは無し。変化球無しで勝負に出ている。
というわけで、レモンサワーを買ってみた。
最近レモンサワーはリアル志向が強まっている。檸檬堂から始まったムーブメントだと考えているけども、おいしいレモンサワーを各社リリースしている。
コカ・コーラ、アサヒ、宝酒造がそれぞれリアル系のハイクオリティ・レモンサワーを発売した傍らで、え…どうしたのキリン?ん?
まぁキリンには既に氷結というトップが居るんでね、多分次はストロング界隈を制圧したいんだと思う。
早速飲んでみる。
「あ、この感覚、昔ストロングゼロを飲んだ時と同じだ…」
と、進研ゼミの(この問題…やったことある…!)的な感情が込み上げる。まさに大人版進研ゼミ。え?どういうこと?
そんなことも、飲むたびにだんだんどうでも良くなってくる。
グラスに注いでみた色はちょっと濁っていてレモンみを感じるが、味は全くそんなことは無い。怖い。笑顔で紳士的な見た目なおじさんが実は誘拐犯だった、みたいな怖さがある。
追いレモン潤沢仕立てとあるが、ちょっともうよく分からない。特に最後までレモンらしきものに襲われることは無かった。
そもそもストロング系でそういうのを求めるのが野暮な気がしてきた。
読んでる人の大半がサントリーのストロングゼロと比べた違いが気になるんだろうけど、んなもん、誤差だよ、誤差。どうせ同じ9%じゃない。
評価
- 味:★★☆☆☆
- コスパ:★★★★☆
- IQ:★☆☆☆☆
- レパートリー:★★★★☆
- キマる度:★★★★★
まとめ
(悪い意味で)頭の悪いお酒。
「おーい、磯野!一緒にブチ上がろうぜ!」って気分の時に飲むと良いと思う。知らんけど。
*1:広義ではウイスキー以外のお酒であっても何かしらの炭酸で割ってあればハイボールとする事もある。