僕は美容院を転々としたくない。イチから素性を話すのが面倒だからだ。
ただ、そういったトークから趣味や普段の生活の様子をまるで糸を手繰り寄せるようにしながらなんとかイメージを紡ぎ、なるべくその人と価値観をマッチさせ、良きヘアスタイルにしていくのが美容師の命題でもあるということは理解しているつもりだ。
まぁこの辺の話は詳しくは前回の記事を。
これ、もう1年前になるのか。
結局この後、もっとしっくりと来るヘアサロンを求めて旅立つことになる。
このヘアサロン選びには慎重さが重要になる。
あんまり何度も何度も経歴や素性を話したくない。億劫だからだ。
しかも音楽関係の事をやっていたと話すと、彼らは何故か異常なまでの興味を示す。まぁ音楽とヘアサロンに親和性が全くないかと言われるとそうでもないような気もする。
「そうなんですか!私実はフェスとかサーキットイベントとか毎年行ってて~」と言ってくると絶妙に返しに困る。
ここでヘタに「ああ、それ僕、出る側でしたよ」「あのフェスだったら、裏方やったこともあります」なんて言えない。無駄に話を広げられるから。
これは僕個人の根深い生活習慣によるものなんだろうけど、僕は美容室にあくまでオフとして来ているし、規模をデカくして言うならば正義の味方の変身前みたいな状況なのね。世を忍ぶ仮の姿みたいな。
日常と非日常は完全にセパレートした生活を軽く10年以上行ってきている僕にとって、もうこれは芸能人ぶっているわけでも有名人ぶっているわけでもなく、単なる習慣と成り果てている。もう簡単には拭えない。
というわけで、フェスやらサーキットやらライブによく行くんですよ系の話を振られると「へぇ、そうなんですねぇー…」という全ての歯にモノが詰まったかのような歯切れの悪さを発揮してしまう。
美容師はそういった空気感を読む力は異様に進化を遂げている生物なので、ありがたいことに話題を変えてくださる。助かる。
メンズヘアサロン
新しい境地へと足を運んだ。
それはメンズ専門のヘアサロンである。
だんだんと歳を重ねていくと、あまりに内装がキャピキャピした美容室は行きづらくなるのだ。落ち着いた緑の多いところやシックなデザインのところが良い。
かといって、1000円カットみたいなところには行きたくない。個人的な思いで恐縮だが、何かを失ってしまいそうな気がする。自分には合わないんだ。
ああいった低価格の理美容は限られた時間で回転率を高める手法のところが多い。メンズはだいたいバッサリ行かれてしまうイメージだが、バッサリ短くしてほしいわけでもない。アラも目立つ気がする。
床屋もまだ早い。安さと何とも言えない居心地はクセになりそうではあるが。
そんな折、折衷案のようなヘアサロンを見つけた。それがメンズヘアサロンというわけだ。
スタイリストももちろん男性。そして女人禁制のこの王国には、スポーツをやっていそうなちょっと色気付いてきやがった中学生から「いやお前それ以上どこ切るねん」って感じのおじい様まで多種多様な男が集っていた。
会話は億劫だったが、仕上がりはさすがメンズを熟知しているメンズ専門店って感じだった。
うむ、悪くないのかもしれない。価格も通常平均と比べれば1000円~2000円くらいは安いような印象だ。
何度か通う
気付けば3回くらいはリピートしただろうか。
価格が安いのが地味に嬉しい。ヘアサロンは毎月通って毎回カラーもすると結構な出費になるが、頻度が高ければ高いほど価格の差を大きく実感出来る。
ちょっと慣れてはきたが、今度はメンズ専門であることによるデメリットも見え隠れしてきた。
一番大きいのは会話の質。結論から言えば、下品な話や下ネタが普通に聞こえてくる。最悪だ。
しかも美容師のにーちゃんが中高生相手にセクハラであろう発言をかましていく。地元の悪いツレが無理やり若造からエロ話を聞き出すみたいな雰囲気も相まって、居心地は良くない物となってしまった。
吾はこういうさもしい言動を見聞きしに来ているわけではない。もう少しパブリックでジェントルな空気感を所望なのだ。
これは少し不協和音が生まれてしまった瞬間であった。
そして一つ生まれた「なんかちょっと合わないなぁ」は徐々に他の不協和を集めていき、水面下で巨大化していく。
いつしか、気付いた頃には取り返しのつかない溝や亀裂を生んでしまっているのだ。
というわけで、せっかく見つけた安息の地から移動するかをまたしても悩んでいるのであった。
この悩みはいったいいつ解決するのであろうか。ヘアサロン難民のエクソデスは続く。