「急で申し訳ないんだけど、明日一日空いてる?」
と、りょすけから連絡が来たのは昨日のお昼のこと。
昨日の時点での明日、つまり今日りょすけの所属しているラフオーケストラがライブをするのは知っていた。よって、明日の予定を確認された時点でなんとなく概要は察しがついた。
推測通り、「ラフオーケストラのサポートで鍵盤を弾いてほしい」との事で。
幸いにも本日土曜日には元々自分の仕事しか予定が無く、他の人とのアポイントが無い状態。
つまり自分の仕事を別日へとスライドさせれば受ける事が出来そう。あとは翌日以降、自分が締め切りに追いかけ回されるという話。
要はそのバランス次第。スケジュールとにらめっこしつつ考える。
その後、こちらのサポートを受ける条件を言って、ラフオケ内で会議をしていただいて。
最終的に意見が合致して出演が決まる頃には日付が変わろうとしていた。
その時点で23時過ぎ。朝の9時半から1時間の音合わせ、その後移動して13時半から現地にてリハーサル、15時半から本番。やる曲数は6曲。
ここで逆算してみる。
朝の9時半に音合わせなので、そこまでに準備が完了している必要がある。23時半くらいなので、残りの時間は10時間。
音合わせに至るまでに音色を調整したり作ったりする作業は済ませておきたい。全員揃っている状態で個人でも出来る事をするのは時間が勿体無い。
よって、遅くても9時にはスタジオについて音色を制作していたい。1曲5分で音色を作ったとして丁度30分。
家からスタジオまでは道中で飲み物を買ったりすることを考えて1時間。家を出るのは8時くらい。
家を出る準備に2時間掛けたいので、起きるのは6時。
ライブの日はカバン一つで出かけるわけにもいかず、こまごまとした準備を忘れないように持っていく必要がある。準備の時間はあまり削れそうにない。
そして普段6時間の睡眠を取るようにしているので、6時に起きるのならば0時に寝たい。
しかし、もしこの計画で進むと、曲を聴いたり練習をする時間が30分くらいになってしまう。1曲少なくとも4分ある事を考えると6曲を1回ずつ聴くだけで終了だ。
まず一つ目の計画として、曲を聴き込むための時間は当日の移動中に設けることにした。
曲を全部CD-Rにまとめて、片道1時間強の碧南市への移動中に聴く。もはやスピードラーニング。聞き流す課題曲学習。
もう一つの計画は、睡眠時間を削ること。1.5時間削って4.5時間の睡眠にする。背に腹は代えられない。
この捻出した90分間を使って、譜面書きを終える。
いける、と判断した。
別に人助けだとかそういう恩着せがましい思いは特に無くて、シンプルに「舞い込んだ一つの案件」として受けさせていただく事にした。
僕のマインドとして、そういう恩を自分から与えている感を出してしまうのはどうも気が引けてしまう。
睡眠時間を削った譜面書き、耳コピの90分。移動中の曲の聴き込み。
そしてスタジオへ着いた後の音色制作時に頭に入れる。
とりあえずこれでスタジオ内で合わせる事が出来るクオリティまでは引き上げられると判断。
その後は碧南まで移動する車内で延々と曲を聴き続ければ良い。
朝のスタジオで音色を制作。
RolandのINTEGRA-7。とりあえずこれ、という感じのファーストコールガジェット。
必要な音色がそれなりにリアルなクオリティで収録されている。音色数も広範で、現場で不足したり困ったりしたことは無い。一台あれば幅広い現場で事足りる。
この機材の中に本日の6曲分の音色のセットを組み込む。上の鍵盤からは音量レベル90のドローバーオルガンの音が出て、下の鍵盤からは音量レベル80のアップライトピアノ…みたいなセッティングを全曲それぞれ作る。
そしてラフオケのメンバーとの再会。
ヘタしたら二度と逢わない可能性だって決してゼロでは無かった。案外「会いたい」と強く思って行動しないと生涯会わない人って多いと思ってる。
みんなそれぞれに急遽の依頼である事を謝り、そして感謝してくれる。でも僕としてはただ依頼を受けただけ。そんなに言われるとなんだかムズムズしてしまう。もちろん嬉しいんだけどもね。
音色合わせは1時間。
準備とバラシを考えると、それぞれ1曲ずつやったら終わり…くらいのスタジオ。
でも、そのおかげで音量バランスのチェックが出来るからありがたい。どうしてもINTEGRA上で組んだものをスピーカーで鳴らすと印象が変わってくる。そのまま単体では良い音なオルガンであっても他の楽器が入ってくると案外と耳障りだったり埋もれたりする。
ソロプレイでは無いので、全楽器を一緒に鳴らしたときの聴こえ方が全て。スタジオでちょっと手を加えて、音合わせは終了。
その後は会場へ。
下道で1時間強。初めて碧南市へと突入した。
待全体がすでにお祭りムードで、ラフオケが演奏をするメインステージは市役所の敷地内に道路へ向けて設置。その道路は夕方には車の侵入が禁止され、歩行者天国になるらしい。
スピーカーとかも数が多いし、これ…お金かかってますね…。
街の至る所にトラスが組まれて大きめのスピーカーがワイヤレスシステムと共に置かれている。
ステージの音が無線で街中の一帯のスピーカーから出力されるらしい。色んな意味で恐ろしい。
ラフオケは夜の踊りのメインテーマの演奏もやるのだけど、その時にされるであろうライトアップのための照明の準備も見受けられる。さすが20年以上続くお祭り。
そして機材を運び込んでリハーサル。
野外ステージはどうしても音の跳ね返りが少ないので、普段のライブハウスでの音の聴こえ方とは全然違う。
このギャップに慣れていないとプレイヤーとしてはかなり演奏しづらいんじゃないかと考える。
ライブハウスは天井や壁があって、そこから反射して他の楽器の音も聴き取れたりする。
対して野外ステージは基本的にステージの外へ向かってギターアンプやスピーカーが向けられ、その奥にも壁や天井は無いので音は跳ね返ってこない。跳ね返ってきたとしてもちょっと時間差があり、輪郭のぼやけたサウンドとなる。
自分の演奏しやすい音周りの環境をいかにステージ上で構築出来るかは大事。これがそのまま演奏のクオリティにも関わる。だって本番でも音が変だと気になるじゃん。集中力を削がれてしまう。
完全防備のメンバーたち。
だって炎天下ですもの。
僕はステージ後方なのでなんとか日陰だけども、それでもかなりの温度と湿度。
これから先のイベントでも熱中症には気を付けて。「自分は大丈夫」って思って油断しているとやられちゃう。
リハーサルが終わり、本番は少し暑さが和らいだ15時半。
陽もちょっと傾き、陰が増えてきた。
とはいえ油断できない暑さ。
歩行者天国となった道路には打ち水がなされ、その後も断続的に各所で打ち水をしていた。水は見た目も涼しいし良い。
本番は自分の中でやれる限りの事はすべてやりました。
しっかりと全う出来たんじゃないかなと思ってる。
今回、即日でライブをこなした事は自分の中でも自信につながりまして。今後もしも「明日ライブで鍵盤を弾いてほしい」って言われても、それを実現できるという前例を作る事が出来た。
普段と違うライブは新鮮で良いですな。僕も楽しかった。
その後もメインテーマの演奏を担当するラフオケメンバーと別れ、一足先に帰路についた。
前回以上に急だったので、余韻がすごい。タイムスリップの反動、みたいな。まぁタイプスリップはした事無いけど。
ちなみに前回はこちら。
今後また交わる事はあるのでしょうか?それは分かりませんが、またそれぞれのフィールドへと戻り日常を繰り返していくのです。
もしもその中にまた交点があったとしたら、僕は存分にそれを満喫したいなと思うのです。