長い。一昔前のラノベのタイトルみたい。
でも酒ガチャを買うのなんて若くても20代半ば以降だろうし、30代~40代も購買する事を考えればきっとぶっ刺さる名前なのだろう。
音楽のアルバムのタイトルなんかもそうだけど、パッと見て内容が連想できる物、全くもって抽象的な物、もう全てを説明する勢いの物…などなど様々だ。
お酒もそう。そしてこの白ワインは飲む前からもう味の想像が出来る。飲んだ時に「これテスト勉強でやったところだ!」ってなりそう。
「ぶどうの王様で、果実味たっぷりのジューシーな白ワインできちゃいました。」について
名前の通り白ワイン。
ぶどうの王様――すなわち巨峰を使用したワインである。
しかし、「巨峰をワインにする」というのは実はハードルが高い所業だ。
巨峰はワイン向きではない
ワイン用のぶどう、というものがある。
特に赤ワインはぶどうの皮・種ごと使用するため、小粒で種が大きく皮が厚い物が好まれる。皮や種にはタンニンが含まれ、これがワインらしさを作る。
また、ワイン用のぶどうは糖分も凝縮されている。糖分はアルコールへ変質するため、ワイン用のぶどうはワインに特化していると言えよう。
翻って、生食用のぶどうは皮が薄く種が小さい。種が無い品種まで存在するほどだ。
デラウェア、巨峰などは瑞々しくジューシーに感じる。まさに生食に適したぶどう品種だが、ワインを作成するにあたってはこれらが壁となる。
まず、皮や種からはタンニンを多く取る事が出来ないため、巨峰のみでの赤ワイン作りは難しい。作れてロゼまでだろう。
白ワインは皮と種は使用しないため、まだ作成はしやすいと言える。が、ここで瑞々しさが裏目に出る。糖度が低いため、アルコールへの変化がしづらいのだ。
これらの困難な要素があるため、好んで巨峰をワインにするワイナリーは少ない。
巨峰を使用するにしても他のワイン向けの品種とブレンドを行い、あくまでサブとして使用するのが常だ。
巨峰ワイナリーの挑戦
この「ぶどうの王様で、果実味たっぷりのジューシーな白ワインできちゃいました。」を手掛けるのは福岡県にある巨峰ワイナリー(株式会社 巨峰ワイン)。社名からして、意地でも巨峰からワインを作ってやるという強い意志を感じる。
巨峰ワイナリーの前身となる酒造場の12代目蔵元は、地元農家、巨峰のパイオニアと手を組み、巨峰栽培を開始。
これは戦後の話。まだまだ日本には巨峰は定着しておらず、栽培も流通も難しい果実だった。巨峰が生まれたのは戦前だったが、栽培の難しさから戦時中はもっと楽で栄養価の高い作物が優先されたため、巨峰は影へ追いやられてしまった。
脚光を浴びる事のない巨峰。12代目は「売れ残ったら全部買い上げる」と言い、訝しがる農家たちを後押しし続けた。苦労を重ね、巨峰が結実したのは1957年だった。
その後、巨峰生産は軌道に乗り始める。
ここでもう一つの夢を実行に移す。12代目は予てよりこの巨峰でワインが作りたかったのだ。
しかし、巨峰は皮が薄い上に大粒の実。ワインにする際の実と皮の比率で考えると、皮があまりに少なすぎる。香りや酸味も弱くワインに向かないだろう、と専門家にも言われてしまう。
12代目の意志を継いだ13代目は発酵工学博士でもあった。日本酒の醸造方法を応用し、試行錯誤をした。フランスにも渡り、ボルドーにてマッチする酵母を発見。
こうして巨峰ワインが完成したのは1972年のことだった。ここで現行の「巨峰ワイナリー」へと生まれ変わる。
構想から完成まで、13年の歳月を要したのだった。
スペック
「ぶどうの王様で、果実味たっぷりのジューシーな白ワインできちゃいました。」は福岡県田主丸産巨峰100%の白ワイン。
アルコール度数は11%で平均的。
分類は甘口のミディアムボディ。巨峰を用いたワインがどういう味わいになっているのか、楽しみだ。
飲み頃は4~7℃なので、よく冷やしておこう。
飲んでみる
開栓。ぶどうジュースのようなふくよかな香りが漂う。
他の白ワインのような「ワインらしい香り」はあまり感じない。発酵香というか。
高貴な香りはしないが、ぶどうの香りをしっかりと纏っている。
色は澄んでいて、淡いシャンパンゴールドカラー。
飲んでみると、しっかりとした甘さ。巨峰の旨みを凝縮したような甘さだ。
なるほど、渋み等が出づらい分、よりストレートなぶどうらしさを楽しめる。
そういった点ではワインというよりも果実酒に近い印象だ。
ワインだけど、ワインと切り離す
飲みやすさで例えると、ちょっと不本意かもしれないけど、スーパー等で売っているメルシャンのそれに近い。
つまりワイン初心者や、辛口のクッと来る感じが苦手な人にはオススメ出来る。
白ワインらしさを求める人や、特にソーヴィニヨン・ブラン種の白ワインが好きな人には期待外れとなってしまう恐れがある。
割り切って、「巨峰をふんだんに使ったお酒」といった感じで楽しむと最高だと思う。
白ワインなんだけど、白ワインとはちょっと違う。
人によって白ワインの思い描く像も違うと思うので一概には言えないが、とはいえ僕はこれはこれでおいしいと思った。
ぐいぐい飲んでしまいそうだが、れっきとしたワインなのでアルコールに注意。
料理とのペアリングは…そうだな、敢えて「要らない」としよう。お風呂上りにしっかりと冷やしたこちらのワイン。それだけで充分であろう。